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脱兎の如く
フィアナの拳が壁にめり込んでいた。それはもうしっかりと。

……ぱらぱらぱら。

フィアナが拳を引き抜くとぱらぱらぱらと壁の屑が零れ落ちた。助けを求めるように二人を見るが、アリアもマリウスもレヴィウスと視線を合わせようとしない。

「……フィアちゃん?」

レヴィウスが恐る恐るフィアナの名を呼ぶが、彼女は微動だにしない。

『荒れ狂う暴風よ……喚び声に応え、我が敵を切り裂け、エアリアル・スラスト』

フィアナの声に応え、具現化された風の刃がレヴィウスの横を通り抜けた。

「い゙っ!?」

咄嗟に体を捻ったレヴィウスだが、幾本かの朱色の頭髪がぱらぱらと空中を舞う。顔を上げたフィアナは笑っていたが……目は完全に据わっていた。

「先輩、まだ用はお有りでしょうか?」

「いえっ! 何もありません!! 失礼しましたっ!」

これはヤバい。レヴィウスは本能に従い、瞬時に詫びると脱兎の如く駆け出した。

『先輩、御愁傷様です』

『まあ、自業自得かもしれないけど』

「あ゙〜」

レヴィウスを見送ったフィアナは、唸り声を上げ、再び机に突っ伏した。

「……暇」

「それじゃあ図書室に行こうか」

学園の図書室には、世界の歴史書から貴重な魔導書まで様々なジャンルの本が貯蔵されている。知識を深めたり、調べ物をするには絶好の場所なのだ。

「ね、フィア。ここに居ても煮詰まってくるだけだよ?」

「うー……分かった」



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