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噛み合わない歯車
 己の失態にカルナシオンは歯噛みした。感情的になってしまったのだ。彼女が冒険者になりたいと口にした時から覚悟していたつもりだった。そのためにライラは娘に剣を教えたし、カルナシオンも魔歌を教えた。例え、自分がいなくても己の身を守れるように。自分でも矛盾していると思う。
 これは初めての喧嘩なのだろう。アルジュナがここまで首を縦に振らないのも珍しい。少し頭を冷やしたくてアスティ達の家を出た。自分に対する彼女の態度がおかしいことには気づいていた。そこにこの一件である。歯車が上手く噛み合わない、と言えばいいのだろうか。今はやることなすこと上手くいかない星の下にいるのかもしれない。

「頭は冷えたかい? そろそろ帰らないか。アルジュナが心配する」

『……言われずとも』

 背後からやや呆れた声が投げかけられる。振り向くまでもない。声の主は夕月だ。樹の枝から飛び降り、着地する。どう言葉を掛けていいかまだ分からないが、いつまでもこうしている訳にはいくまい。同胞の命はこの間にも危険に晒されているのだから。

「あたしは声を聞く者じゃないんでね。何言ってるかさっぱりだよ」

『分かっている』

 これだから人間は、と言いかけて口をつぐむ。それを言った所でどうしようもない。言葉が通じない事に対して不便とは思わないが、こんな時は困るというもの。ため息をついて人の姿を取る。小さな竜から青年へ。
 島国スイレンの民族衣装に似た装束を纏い、同年代の青年へと姿を変えたカルナシオンに、夕月は驚いているよう。それも仕方のないことかもしれない。彼女の前で人の姿を取ったことはないし、小さい竜の姿から幼生と勘違いしていてもおかしくなかった。

「言葉が分からないと言ったのはそっちだ。この姿が不思議か? 竜の力は見た目では測れない。覚えておけ」

「まあ、それはそうだけど、まさか人になれるなんて知らなかったんでね。なら普段はどうして竜の姿なんだい? 不便だろうに」

 カルナシオンは基本、人を好ましいと思わない。夕月とは会って間もないため、どうしても傲慢な、突き放すような言い方になってしまう。けれど、彼女は驚きはしたものの気分を害さなかったらしい。
 あのカナリアの知り合いだ。良くも悪くも普通ではないのだろう。夕月に言えば、直ぐ様否定されるだろうが。

「煩わしいからだ。それ以上の理由が必要か?」

「いや、まあ納得したよ」

 人と会話するのだって煩わしい。ならば最初から言葉の通じない竜の姿でいる方が楽だ。そう言えば、夕月は納得したようだった。



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