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愛しているから
 月光草が花を咲かせるのは夜。蕾の時点で見つけるのは不可能に近い。カルナシオンの言葉を受け、昼の内に山に入り、日が落ちてから月光草を探すことになった。アスティは共に行くと言って聞かず、あまりの頑固さにカルナシオンも音を上げたほどである。結局、折れたのはカルナシオンの方。まずはロゼの様子を見るため、一行は街外れにある彼らの家に向かっていた。
 アルジュナはうたた寝を始めたカルナシオンをカナリアに任せ、アスティの隣を歩く。何かを聞くならば、今この時をおいて他にない。

「あの、アスティさん。聞きたいことがあるんですが……」

「うん? 僕に答えられることなら」

「アスティさんは迷いませんでした? ロゼさんは竜で、アスティさんはいつか……そのロゼさんをおいていってしまう」

 いざとなれば、尋ねるのははばかられた。でも、聞かずにはいられない。どうしても知りたかったのだ。自分たちと似た境遇である二人の選択を。傍らで生きることは出来ても、共に老い、土に還ることも出来ない。竜は死ねばマナとなり、世界へと還る。残されるのは魔水晶だけ。それを知って尚、二人は友人でもなく、恋人であることを選んだのだろう。
 恐ろしくはないのか。恋人は老いず、自分だけが老いてやがては彼女を置いて逝く。どんなに愛しても、人と竜の恋の結末は変わらない。

「何度も迷ったよ。僕は彼女を置いて逝くし、共に老いることも出来ない。どんなに愛しても、共にいることすら簡単じゃない。彼女に必要なのは、同じ時を生きる相手。そう思ったこともあったかな。うん、今でも時々思う。でも、無理なんだ。苦しくても辛くても、泣き出しそうになっても……彼女を愛してるから。せめて僕が生きている間は僕だけを見て欲しい。そして、僕が死んだら、また恋をして欲しいんだ」

「アスティさん……」

 アスティのロゼに対する深い想いに、アルジュナは言葉を失った。夕月は無言。カナリアも黙って水晶を握り締める。彼の言葉はそのままアルジュナにも当てはまる。
 例え先に待つ運命を知っていても、愛しているから離れられない。穏やかに微笑む青年はとても眩しく見える。彼の中にあるのは深い、深い愛だった。アルジュナが同じ立場なら、彼と同じことが言えただろうか。

「君とカルナシオンさんは?」

「家族、です」

 少なくとも今は。父にして兄であり、掛け替えのない家族。どうして人と竜はこんなにも違うのだろう。幼い頃は思いもしなかったが、成長するにつれて目を逸らせなくなった。悲しいくらいに変わらない現実から。



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あきゅろす。
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