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 エクレール=ミスラ=レミエール。世界の支柱たる始まりの竜の一柱。敬称は紫電の君。ただ、彼女は始まりの時より生きている訳ではなく、初代の記憶と魂を継いだ存在だ。よってカルナシオンが知る彼女は、彼女であって彼女ではない。
 カルナシオンにもっとも近しいと言えるのは、エクレールではなく、蒼穹の名で呼ばれる竜だろう。

「実に懐かしい。久々に良いものを見たな。マスター、シルバー・ブレット一つ」

「……珍しいな」

「なに、酒好きなものでね」

 エクレールはマスターを呼び、シルバー・ブレットを頼む。その名を聞いたカルナシオンは目を見開く。それほど酒に詳しい訳ではないが、その名は知っていた。シルバー・ブレットとはジンをベースとするカクテルであり、その名の通り、銀の弾丸を意味する。キュンメル・リキュールを扱う店が少ないため、作ることが出来ない店も多い。魔除けとしても有名な珍しいカクテルだ。
 暫くして、彼女の前にカクテル・グラスが置かれた。グラスの中の乳白色の液体が揺れる。

「それで、俺に何か?」

「いいや。私たちの間に会話は不要だろう? それに、お前は話好きには見えない。今の私の相棒と同じで」

「それは有難い」

 同族とは言えど、カルナシオンは多弁ではないし、無駄な会話も好まない。『カルナシオン』と『エクレール』も初対面だ。彼女の相棒もどうやら同じらしい。その時、階段の方から声が聞こえた。貴公の話が苦手なだけだ、と。
 階段を降りてきた人物は二十歳前後の青年である。白雪を思わせる髪に夜を封じ込めた紫紺掛かった黒瞳。落ち着いた態度と整った顔立ちと相まって、氷のような美貌が際立つ。袖の長い白の装束を纏っているが、彼もまた人ではない。エクレールと同じ力を感じる。同胞だ。

「やあ、ミラ。降りてくるなんて珍しいな」

「貴公が飲み過ぎないように、だ。毎朝起こすのは勘弁して貰いたい」

 ミラ、と呼ばれた彼は辟易したように言う。竜は少々のことでは人の酒で酔うことはない。単に寝起きが悪いだけか、それとも……。エクレールから視線を逸らした彼は、隣に座るカルナシオンに気づいたようで、僅かに目を細めた。



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あきゅろす。
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