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あなたの悲しみに寄り添う
 悲しみに寄り添ってくれたのはアルジュナの方なのだろう。彼女はいつもカルのお陰だと笑うけれど。
 人間なんて信じるに値しない存在だ。最初からそう興味がある訳ではなかったが、『彼女』だけは違った。もはやこの世界にはいない彼女だけは。彼女が世界に帰ってから、人と関わる気などなかった。認めたくなかったが、彼女は死はカルナシオンの心に大きな傷を残したのだ。それなのにアルジュナの歌声はその決意を簡単に打ち砕く。歌声を聞いた瞬間、その魂に寄り添いたいと願ってしまった。

 アルジュナの歌声は美しかったが、それ以上に寂しいと叫んでいるような歌声だった。その声に強く惹かれたのだ。健やかに眠る少女の髪を撫でながら微笑む。深く眠っているからか、彼女が目を覚ます気配はない。月の光がアルジュナの白い肌を浮かび上がらせ、妖精のように見せていた。
 普段、カルナシオンが小さな竜の姿でそばにいるのは、けじめでもある。人の姿を取っていると、つい触れたくなってしまうから。彼女も年頃の娘。竜とは言え、異性がそばにいるのはあまり好ましいことではないのだろう。
 アルジュナとカルナシオン、人と竜。二人の体に流れる時間は違う。永遠に一緒にいることは出来ない。いつかアルジュナも恋を知り、誰かを愛するのだろう。いつか、ではない。遠くない近い未来に。

「……ん、カル……」

「なんだ?」

 とその時、アルジュナが身じろぎをしてカルナシオンの名を呼んだ。目覚めた訳ではない。寝言だ。髪を撫でながら律儀にも尋ねる。すると、彼女は目を閉じたまま幸せそうに微笑んで、こう言った。

「大好き……」

「……そんなこと、知っている」

 カルナシオンは時に兄である、父でもあった。好かれていると思うのは決して自惚れではないが、つい頬が緩む。アルジュナが望む限り、そばにいよう。彼女との絆はカルナシオンにとっても救いだったのだ。
 いつかは覚める、終わってしまう夢だからこそ、これ程までに愛おしいと思うのだろうか。それから暫く、彼は少女の寝顔を見つめていた。アルジュナという存在をその瞳に焼き付けるように。


 了



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