水晶のよう
「アルジュナさん、カナリアさんと仰るのですね。その子は竜、なのですか? 本で読んだことはありますが、初めて見ました」
「わたしの友達なの。友達で家族で、大切な存在」
カルナシオンを見るアーラの瞳には、好奇心が垣間見える。夫妻は彼女に希望を見せて欲しいと言っていたが、塞ぎ込んでいるようには見えなかった。それとも、会ったばかりでは分からないのか。
アルジュナはカルナシオンの首を撫で、彼を紹介する。友達で家族で、大切な存在だと。一般的な言葉に当てはまる存在ではないのだろう。彼と過ごしたのはまだ五年ほどだが、その五年の間にカルナシオンの存在はアルジュナの中でとても大きくなっていた。歌えない歌姫と揶揄されても、彼がいるから耐えられた。 カル、と声を掛けて手のひらに乗って貰うようお願いする。彼が人間を好きではないのは知っているが、アーラなら或いはと思ったのだ。
『……お前の望みなら仕方あるまい。特別に許す』
「許すって。触っても大丈夫」
首を傾げる彼女に、触ってもいいと説明する。アーラは声を聞く者ではないのだろう。アルジュナが声を聞く者だと話せば、彼女は凄いですね、と無邪気に笑っていた。読書を好むようだから、竜に関しては知識として知っていたのかもしれない。
少し躊躇っていたようだが、アーラはそっとカルナシオンに触れる。彼はアルジュナに言われたからか、大人しくしていた。竜の鱗というのは不思議なもので、冷たいだけではなく、ほんのりとあたたかい。滑らかな手触りは鉱石や宝石のようなのに不思議とあたたかいのだ。
「竜の鱗は冷たくて、でもあたたかいですね」
「炎を封じ込めた水晶みたいじゃない?」
「炎を封じ込めた水晶……確かに水晶みたい」
頬杖をついて竜の鱗を水晶に例えるカナリア。その通りだと思う。触れていると落ち着くのだ。昔、一人で寂しかった時、カルナシオンを抱きしめていると癒される気がした。彼女に必要なのは誰かの温もりなのかもしれない。
小さな鳥籠に閉じ込められた銀の鳥。アーラは古代語で翼を表す。夫妻はどんな思いでアーラと名付けたのだろうか。翼の名を持ちながらも羽ばたくことが出来ない鳥がアーラなのだ。彼女は少しだけアルジュナに似ていた。羽ばたくことも出来ず、鳥籠から空を眺めるだけだった自分に。
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