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意外に狭い
 アルジュナたちはギルドを出て、依頼人の家に向かう。場所はレキに教えて貰い、地図まで持たせてもらったため、迷うことはない。サイネリアの街自体、それほど広くはないのだ。やがて依頼者の家にたどり着く。そこは屋敷と言っても過言ではない家だった。ギルドよりよほど大きい。よく手入れされた庭園には様々な花が咲き乱れ、とても良い香りがする。
 白い石造りの屋敷は窓も多く、青い屋根と相まって本当に城のようだ。あまりにアルジュナの知る『家』と違って足を踏み入れることを躊躇ってしまう。

「ここが……?」

「家と言うより屋敷だけどね。何でも昔は領主だったみたいだよ」

 答えを求めるようにカナリアを見れば、彼は頷いてその理由を説明してくれる。依頼人の一族はかつて領主であったことがあるらしい。屋敷はその名残りだとも。そんな事情があるなら納得出来る。
 肩に乗った彼が身動ぎをした気がして、アルジュナは視線を向けた。先ほどまで青年の姿をしていたカルナシオンだが、今は小さな竜に戻っていた。依頼内容を考慮してのことである(カナリアが、だが)
 依頼内容は依頼人の娘の話し相手となること。カナリアが同行しても問題はないが、カルナシオンは別だ。いくら整った顔立ちをしていても、刃のような雰囲気をしていれば彼女を怖がらせてしまう。とは言え、竜が苦手な可能性もあるが、青年の姿よりは小さな竜の方がいいとのことだ。

「カル? まだ怒ってるの?」

『怒ってなどいない。俺の心はそれほど狭くはないからな』

「やっだー。カル君の心は意外に狭いよ?」

 それほど狭くはないと言いながらも、まだ不機嫌そうなのはアルジュナの気のせいではないだろう。その証拠にカナリアが茶化すように笑う。
 あまり人を好まない以上に、カルナシオンはこの年齢不詳の少年が気に入らないのだろうか。カナリアもカナリアで、悪乗りをして神経を逆なですることを言うから更にややこしい事態になるのである。ぷるぷると体を震わせ、耐えるカルナシオンに囁く。

「カル、落ち着いて。カナリアは分かっていて言ってるから」

『……本気になどしていない。ただ、どうすればあの人間の口を縫い付けられるか考えている』

「カ、カル!」

 いくら何でも口を縫い付けるのは不味い。慌てて止めようとすると、冗談だ、と返される。普段、全く冗談を言わない彼だ。冗談に聞こえないどころか、本気だと思ってしまった。どうやってカルナシオンを止めるか考えた所である。
 何だかどっと疲れたような気がした。詳しい話を聞く前に疲れてどうするのだろう。

「じょ、冗談に聞こえないよ……」



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あきゅろす。
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