[携帯モード] [URL送信]
そのさん
 何をどう相談すればいいのか分からず、第一声に困っている内にエヴァンジェリンがミルクティーを用意してくれた。貴族であり、アルカード家の前当主であった彼女だが、紅茶にはこだわりがあるらしく、自分で淹れることも多い。湯気を立てるティーカップを見つめていると僅かばかりだが、冷静になれた。本来なら相談すべきではないのだろう。相談された方も困るだろうし、何かが出来る訳でもない。
 そんなフェリシアの葛藤を読んだようにエヴァンジェリンは苦笑する。

「そんな顔をするくらいなら、最初からわらわを訪ねる必要などないだろうに」

「……ごめん」

「謝らずとも良い。しかし、何かを言ってくれぬなら、流石のわらわも答えようがない」

 優雅に足を組んだエヴァンジェリンは、ティーカップを傾けながら苦笑する。それはそうだろう。彼女を訪ねた理由をそもそも話していなかった。それでも、話すべきか止めるべきか決心がつかない。リュシアンへの思いは皆を裏切ることにならないだろうか。そんな悪い考えばかりが頭に浮かぶ。

「のう、フェリシア。フェリシアは確かに魔王じゃ。しかし、だからと言って全てを我慢する必要はない。まだ若いお主に魔族の運命を背負わせてしまって本当に申し訳なく思っておる」

「エヴァ……。ありがとう。でも、あたしなら大丈夫。辛くても苦しくても逃げたくないの。最初はよく分からなくて、どうしてラインハルト様があたしを選んだのかも分からなかった。それは今でも分からないけど、あたしが望んでここにいる。もっとあたしが強かったら、アルジェントのような王なら良かったのに」

 思いがけない優しい言葉に泣きそうになる。魔竜王の神託によってフェリシアは王となった。いくら歴代魔王の中でも特に強い魔力を持っていても、ただの小娘に過ぎない。帝王学さえ学んでおらず、また若い。いや、若すぎる。何故、魔竜王はフェリシアを選んだのか。それを疑問に思っていたし、今も思っている。
 それでも、今は望んで『ここ』にいるのだ。命を狙われても放り出したりしない。もっと自分が強ければ、文句をつけようもない立派な王ならば反魔王派に付け入る隙を与えることはなかったのではないか。自分の力不足に腹が立つ。よくやっている。そう言って貰えても中々に拭えないのだ。

「アルジェントにはアルジェントの、お主にはお主の役目がある。お主が当代の魔王に選ばれた事にも意味があるのじゃろう。強いだけでは、力だけでは心までも捻じ伏せることは出来ん。例え、フェリシアの言うような王がいたとしても反感は買う。ひとは妬み、また憎悪する。わらわたち魔族でさえ、そんな感情とは無縁ではいられない。誰もが納得する答えなど存在しないのじゃ」



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!