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そのに
 フェリシアはまだ王としても魔族としても半人前で、先王アルジェントには及ばない。それは十分理解しているし、すぐに結果が出るものではないのも承知の上だ。ただでさえ、若年というだけで侮られる。不可侵条約に反感を持つ者も少なくないだろう。魔族の中には自分たちが偉大だと考え、人族や神族を蔑む者もいるのだ。そんな者たちに理解して貰うのは難しいと言わざるを得ない。心まではそう簡単には変わらないのだから。

「もっと頑張らないと……。でも、少しだけさみしい、かな」

 もっと頑張らなければ。そう思うのにさみしい。リュシアンへの思いを自覚してしまったからか。こんなこと、ジュリアには話せないし、何より心配を掛けたくなかった。では誰に相談すべきなのか。
 ここはやはり、同性で年を重ねたエヴァンジェリンが適任かもしれない。幸い、書類も大体片付いたし、午後からは特に予定は入っていなかった。一人でうじうじ悩んでいるのは性に合わないこともある。

 部屋を出たフェリシアは、フレディともう一人の騎士を連れて月の塔に向かう。月の塔は結界の基点となる塔の一つで、宮廷魔術士たちが使用している。今の時間ならばエヴァンジェリンもいるだろう。ここ最近、フレディは護衛をつとめることが多かった。ローウェル曰く、その方が被害が少ない、そうだ。
 本来は神秘的で厳めしい雰囲気を醸し出しているはずの月の塔は魔術士長である彼女の趣味が反映されていた。とにかく煌びやかなのである。所々に蔓薔薇のモチーフ、真紅の絨毯にはふんだんに金糸、銀糸の刺繍が施されている。

 フェリシアの来訪に気付いた魔術士の一人が気を利かせてエヴァンジェリンを呼んで来てくれると言う。二人きりで話したいと伝えれば、彼女の部屋で待っているように、とのことだった。
 フレディと騎士を扉の前で待たせ、エヴァンジェリンを待つ。訪ねたまでは良かったが、なんと切り出せばいいだろう。それとも、察しのいい彼女のことだ。とうにフェリシアの気持ちなど知っているかもしれない。それはそれで話が早いが恥かしい気がする。

「さっきから百面相をして、見ているこちらが面白いわ。して、何用じゃ? 予想がつかぬことはないが、一応聞いても良かろう」

「エ、エヴァ! いるなら声掛けてくれたら良かったのに……」

 ふふん、と意味ありげに微笑んでいたのはエヴァンジェリン本人だった。一体いつから見ていたのか。いるならいるで声を掛けてくれれば良かったのに。一人で百面相なんて、それではおかしな人ではないか。

「こんな近くに来るまで気づけなかったフェリシアが悪いのじゃ。どうせ、考え事でもしていたのだろう?」

「そ、その通りだけど……!」

 これまた否定出来ないところが悔しいところ。図星としか言いようがなかった。彼女は魔力も気配も隠していなかった。普段なら気付いていたはずだ。気付かなかったのは考え事に夢中になっていたから。弁解の余地もない。



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