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そのきゅう
 神王との謁見を終えたフェリシアたちは、回廊を歩いていた。魔族と神族の和解は簡単ではないだろう。そう考えれば、セイリオスの提案は的確とも言える。彼の性格と思惑を考えなければ。
 何にしても、まずは民や元老院に理解を求めねばならないだろう。少し気が重いが、全て承知で選んだことだ。

 前を歩くリュシアンを一瞥し、何とも言えない気分になる。後ろ姿からは何を考えているのかも分からず、何故かもやもやした。
 神王がリュシアンとソールを遣わすと言っていたことを思い出す。それを聞いた時、何を思ったのだろう。嫌、とは思わなかった。
 悔しいが認めるしかない。嬉しいと。素直に認めるのは何だか癪だが、偽っても仕方がないとも言える。

 だが、回廊の向こうからやって来る人物を見て、フェリシアは表情を引き締めた。今はあまり会いたくない人物。
 異国風の羽織りを纏った従者を引き連れた青年。瑠璃色の礼服を身につけた彼は、セイリオスだ。彼の顔には穏やかな笑みが浮かんでおり、一般市民が見れば簡単に騙されそうである。まさか腹が黒いとは思わないだろう。

「やあ、フェリシア。リュシアン。奇遇だね」

「奇遇? 何をいけしゃあしゃあと」

 何食わぬ顔で言うセイリオスに、怒りさえ感じない。呆れを通り越して感心する。面の皮があついとは、こういうことを言うのだろう。
 彼の精霊術は魔族や神族とも違うため、発動が分かりづらいのだ。居場所を知られて困る訳ではないが、あまり良い気分とは言えない。思わず素が出たが、この場にいる者たちの前では取り繕う必要はないだろう。

「セイリオス様。出掛けられる時には、お声を掛けて頂きたい、と言わせて頂いたはずですが?」

「そのようだ。忘れていたけど。すまないね、リュシアン」

「いいえ、お分かりならば良いのです。差し出がましいことを申しました」

 あくまでにこやかな笑みを浮かべるリュシアン。セイリオスも負けてはいない。フェリシアからすれば、腹黒同士の探り合いにしか見えないが。わざわざ口を挟む必要もないため、黙って成り行きに任せることにした。
 忘れていた、は口から出任せだろう。セイリオスは客人としてパレスに滞在している。彼が一方的に押し掛けた結果だが、神族側としては勝手に動き回られては困ると言ったところか。



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あきゅろす。
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