そのなな クロウの役目は、フェリシアに不埒な真似をする輩がいないか見張ること。普段は趣味と実益を兼ねて魔王城の料理長をしているが、本業は隠密。 今のクロウの服装は普段の白を基調とした着物ではない。 袖や裾が長く、全体的にゆったりとした作りではあるものの、纏う装束は黒。闇そのものであるかのよう。 ちょこんと背に生えた羽根と眠そうな顔はいつもと同じ。武器を携帯しているようには見えないが、それは見た目だけ。 暗器使いであるクロウは、体中に武器を隠し持っているのだ。魔力を編み込んだお陰で凄まじい強度を誇る鋼糸や針、小刀に苦無など。あげればきりがない。 表向きの護衛はフレディたち騎士が行うが、クロウは言わば裏方。暗殺を警戒しているのである。この機に乗じて過激派の貴族が行動を起こさないとも限らない。 今のところ、問題はないが油断は禁物だ。一見しただけでは分からないが、周囲にはクロウの部下たちが散っていた。 隠密である彼らが姿を現すことは少ない。彼らは文字通り、影の存在だ。クロウは必要とあらば手を下すことも躊躇わない。フェリシアのためなら、いくらでも汚れ役を引き受けよう。クロウ率いる隠密にフレディたち騎士、フェリシアの元にはジュリアとエヴァンジェリンと三重の守りである。 踊るように、身軽に木々を飛び移るクロウ。彼の昼の顔しか知らない者が見れば、さぞ驚いたことだろう。 表向きは彼らの存在自体、伏せられている。国の影を司る存在がクロウ率いる隠密たちだ。 本来なら隠密を率いるのはヨルハ一族の当主であり、現当主――クロウの甥に当たるシグレ=ヨルハであるはず。しかしシグレはクロウに全ての指揮権を譲渡した。 少々特殊な事態にはなったが、一族の中に反対する者はいなかったという。 何故なら、クロウ=ヨルハはただの烏族ではない。 八咫烏と呼ばれる崇められる存在だから。強大な魔力を有する上に、隠された金の瞳には不思議な力が宿っているという。 特に当主であるシグレは、クロウを父や兄のように慕っている。端から見れば奇妙な光景だが、シグレ本人は気にしてすらいないとか。 ただ、何があろうと、クロウがすることは変わらない。何に代えてもフェリシアを守るだけだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |