銀の星が光る時 悪戯はほどほどに 朝の空気は清々しくて気持ちいい。頬を伝った汗を拭い、ふうと息を吐く。その隣ではラピードが尻尾を振っている。せっかく早起きしたのだから、と彼に付き合って貰ったのだ。ユーリはまだ寝ていたため、起こすのははばかられたこともある。 星喰みの一件が終わり、旅を続けて一年。エリシアとユーリは凛々の明星の一員として世界を回っていた。魔物退治の依頼や失せ物探し。とにかく、様々な依頼をこなしてきた。しかし、それらが実を結んだか、と問われれば微妙なところだが。増えたメンバーはただ一人。エリシアの以前からの友人で、クリティア族のイシュトヴァーンだけ。 そろそろユーリを起こしに行く頃合いだろう。彼が隠れて剣を振っているのは知っている。昨日も夜遅くまで起きていたのだろう。ユーリは努力している姿を誰かに見られることを嫌う。だからエリシアは知らないふりをしていた。魔導器が消えた今、人の身で強い魔物と戦うのは容易ではない。自分やエステル、レイヴンのように戦うことは出来ない。それはユーリが一番よく知っているだろう。 「じゃあ、ラピード。ちょっと行ってくるね」 「わふっ!」 ラピードと別れて宿の部屋へと向かう。そっとベッドを覗いてみるが、まだ眠っているようだ。シャワーを浴びようかと思ったが、彼を起こしてからでも良いだろう。気持ちよさそうに寝ているため、起こすのは忍びなかったが、ここは心を鬼にしなければ。 「ユーリ、起きて」 「……う……エリィ?」 体を揺すってみるが、起きる気配はない。何やら呟いていることから、寝ぼけているのだろうか。寝起きのいいユーリにしては珍しい。大体は起こす前に起きて来るのだ。こうなったら仕方ない。力づくで起こすしかないだろう。 布団を剥ぎとってやろう。そう決意した瞬間、腕を引かれた。虚を突かれた形になり、体を支えることが出来ずにベッドに倒れこむ。思わず、わっ、と声が出る。 「色気ねえな」 「ユーリ……! 起きてたの!? はいはい、色気がなくて悪うございましたね」 いつの間に目覚めたのだろう。唇が触れ合うほど近くにユーリの顔がある。正直、逃げたかったが、強い力で抱きしめられているため、身動きが取れない。体を動かして汗をかいたところなのだ。乙女心も少しは理解して貰いたい。 確かにジュディスに比べれば色気など皆無に等しいだろう。しかし、女として色気がないと言われて黙っていられるものか。 「分かったから暴れるなって。冗談に決まってるだろ」 「あ、汗かいた所だから離して」 お願いだから離して欲しい。ユーリの唇が楽しむように耳に触れたかと思うと、首筋に口付けられた。お願いだと言っても、やだ、と返される。 「子供じゃないんだから、早く起きて朝ごはん食べない? 私もシャワー浴びたいし」 「はいはい。エリィの言う通りに」 頬に口付けられたかと思えば、ユーリはあっさりとエリシアを解放した。ベッドから身を起こし、身支度を始めているではないか。それなら最初から素直に起きればいいのに。拍子抜けした気分でいると再び引き寄せられ、耳元で囁かれる。 「それとも、続きして欲しいのか?」 「なっ……! ユーリの色魔!」 平然としている彼を見ていると、ふつふつと怒りが湧いてくる。無論、気恥ずかしさもあるのだが、ご丁寧に言ってやるものか。エリシアは喉を鳴らして笑うユーリの顎に父直伝の裏拳を叩き込んだ。その後、ユーリがどうなったかは、語らない方が彼のためだろう。 了 大変長らくお待たせしました!こんなにもお時間頂いてしまって本当に申し訳ないです。甘夢、というリクエストを頂いたのに最後のオチがギャグ風味になってしまい申し訳ありません(;´∀`) 折角お任せして頂いたのに、私のセンスがなかったようです。リクエストありがとうございました! [戻る] |