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の星が光る時
夫婦喧嘩は犬も食わない
切っ掛けな些細なことだった。エリシアを庇ってユーリが怪我をした。幸い、傷はそれほど深くはなかったし、治癒術で跡形もなく消えたのだが、今二人の間に流れる空気は氷のように冷たい。不用意に近づけば、文字通り、氷漬けにされそうだ。

今までこれほどまでに険悪な雰囲気になったことがあっただろうか。エリシアとユーリが喧嘩をすることはまずない。ユーリは年上ということもあって抱擁力があるし、エリシアもエリシアで物わかりがいい。我が侭だって言わない。よって、喧嘩が始まるところまでいかないのだ。

「あの、エリィ、ユーリと喧嘩したんです?」

「うん、まあ……ちょっと、ね。午前中の戦闘で、カロルのサポートに入ったでしょ。その時にユーリが私を庇って怪我をして、前に出過ぎだって怒られちゃって。でも、私だって守られるだけは嫌。ちゃんと戦えるのに。言い返したら、ユーリも怒っちゃって、今の状態」

気を遣ってくれているだろうエステルに笑いかけ、エリシアは夜営の準備をしているユーリを見つめる。エリシアとエステルは食事当番だ。ことの始まりは昼前まで遡る。

エリシアは戦闘中に苦戦していたカロルのサポートに入った。ただそこで、彼から自分に魔物の注意をひきつけようとした時、ユーリがエリシアを庇って怪我をしたのだ。
そのことで言い合いになり、既に半日、ユーリとは話していない。こんなことは初めてだ。

「エリィは怒っているんですか?」

「少しだけ。守られたくないって思うのはおかしい? いつだって私はユーリの隣で戦いたい。父さんだって分かってくれた。嬉しいけど、対等でいたいから」

「エリィ……。エリィは強いですね。でも、ユーリはきっと、エリィに傷ついて欲しくないんです。大切だから守りたい。傷ついて欲しくない。そう思いませんか?」

エステルの言葉は胸に染みた。難しいことではないのだろう。大切だからこそ、この手で守りたい。傷ついて欲しくない。そう思うのは当然だ。それはエリシアだって同じ。なのに、つい意地を張ってしまった。ただ怖かったのだ。彼を失うことが。分かってみれば答えはとても簡単で。

「ありがとう、エステル。お陰で元気出た。ユーリと話してくるね」

「はい、行ってらっしゃい」

料理をエステルに任せ、ユーリのもとへ向かう。何故、ユーリが怒ったのか、エリシアは全く理解していなかったのだ。恥ずかしくて、申し訳ない。
ユーリは黙々と夜営の準備をしている。話しかけるのさえ躊躇われるが、このままではいられなかった。

「……ユーリ。あの、ごめんね。あんなこと言っちゃって。私、全然分かってなかった。どうしてユーリがあんなに怒ったのか」

彼は何と言うだろう。また怒るだろうか、それとも呆れるだろうか。スカートを握りしめ、じっとユーリの言葉を待つ。すると、彼が笑った気配がした。

「……俺も悪かった。自分が抑えられなくて、ついな。エリィを失うかと思えば、怖かったんだ。目の前が真っ白になりそうで、気がつけば足が勝手に動いて庇ってた。駄目だろ?」

「駄目なんか……! 私だって怖かった。私を守って、ユーリが傷付くのは嫌だったの。隣で戦いたい、対等でいたい。そう思うから」

長い指が優しくエリシアの頬を滑る。この温もりが失われてしまうことを恐れた。視界に散った赤。冷静でなんていられない。
戦いに慣れていても、ユーリが自分を庇って血を流すことに慣れないのだ。二人とも、互いに傷ついて欲しくない。守りたい。喧嘩をして、でも思いは同じだった。ユーリとエリシアは顔を見合わせて笑う。

「なんだ。二人とも怖がってただけじゃねえか。馬鹿だな、オレたち」

「うん、馬鹿みたい」

頬に添えられたユーリの手に己の手を重ねる。二人して馬鹿みたいだ。ユーリもエリシアも失うことを恐れていただけ。周囲などそっちのけで甘い雰囲気を醸し出す二人を見て、エステルはちょこんと座るラピードに話しかけた。

「夫婦喧嘩は犬も食わない、ですね。ラピード?」

「わふっ」


End

廉さま。大変長らくお待たせしました!ユーリとエリシアが喧嘩をして仲直り……のはずがグダグダですみません。恋をすると臆病になるような感じで書きたかったのですが、本当に夫婦喧嘩は犬も食わない、ですね……!
残念な出来ですみません。リクエストありがとうございました!


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