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の星が光る時
只、堕ちてゆく
エリシアだってたまには考え事だってする。それが例え料理中であってもだ。本日の当番はエリシアとエステル。
料理が不慣れな彼女をサポートするためである。

他の仲間たちは野営の準備に追われており、周囲を警戒してくれているラピードも例外ではない。

「はあ……」

ため息をつきながら野菜を刻む。思わず漏れてしまったため息の原因はユーリにあった。
彼がそばにいるとドキドキする。それが異性として意識しているものか、経験値の低いエリシアには分からない。

こんなこと、誰にも相談出来なかった。エステルやリタでは駄目だろうし、ジュディスに相談するのも少し気がひける。
かと言って父やレイヴンはもってのほかだ。

「はあ……。もう、どうしよ……」

もう本日何度目かも分からないため息をついた時、指に鋭い痛みが走る。考え事をしながら包丁を使っていたため、指を斬っていたのだ。

「あーあ……やっちゃった」

料理を始めたばかりの頃はこうやって手を斬ったこともあるが、それも昔の話。考え事をしていた自分が悪いのだが、嫌な気分である。
傷自体は小さい。だが結構深く斬ったのか、血が止まらない。あいにく抑えるものもないし、どうしたものかと思案した時、

「エリィ? どうした?」

「……ちょっと切っちゃって。何か抑えるものない?」

声を掛けて来たのは野営の準備をしていたユーリである。内心の動揺を隠してどうにか平常を保つ。するとユーリは何か思いついたのか、意地の悪い笑みを浮かべた。

「貸してみ」

「え?」

暇もない。ユーリは訳が分からずにいるエリシアの手首を掴むと、血が滴る指を口に含んだ。
呆気に取られて思わず抵抗を忘れた。だが子猫がミルクを飲むような水温にエリシアは我に返る。

「ユ、ユーリ……」

離れようにも手首を掴まれているためそれも叶わない。どうにかしてくれと彼の名を呼んでもユーリは楽しげに微笑むだけだ。
ざらついた舌の感触がやけにリアルに感じられる。

「ん……」

口をついて出た声にエリシアは赤面する思いだった。まともにユーリの顔を見られない。
そんな彼女の反応をひとしきり楽しんだ後、ユーリは口を離した。

「消毒、終わりと」

「……ユーリの馬鹿、阿保、おたんこ茄子、色魔!!」

エリシアは思いつく罵詈雑言を薄い笑みを浮かべるユーリにぶつけた。身体の奥から熱くなるような感覚に襲われる。
もう何が何だか分からなくて涙目になってユーリを睨みつけた。

「酷い言われようだな、おい。それはおっさんに言ってくれ。それとも誘ってんのか? そんな目して」

おいおいと肩をすくませたユーリは、エリシアの顎を掴んで持ち上げ、唇の端を歪める。
涙目は反則だ。おっさん辺りならところ構わず抱きしめそうだ。

「そんな顔、俺以外、誰にも見せんなよ」

(だから早くここまで堕ちてこい、エリィ)


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あきゅろす。
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