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の星が光る時
A
自分でも馬鹿らしいと思う。……ジュディに嫉妬するなんて。自己嫌悪に陥りそうになってエリシアは水面を見つめた。
そこには不安げな少女の顔が写っている。
水を汲もうにも肝心のものを忘れたことに今、気付いた。
周囲に魔物の気配がなかったのがせめてもの幸いか。

唐突に気配を感じたエリシアは咄嗟に振り返った。そこには彼女が今、一番会いたくない人物が立っている。

「ユーリ……」

二人きりなんて耐えられない。
口を開けば心にもない言葉を口にしそうで、今すぐ逃げだしたい衝動にかられる。
身を翻そうとしたその時、ユーリがエリシアの手首を掴んだ。バランスを崩し、思わずよろけそうになる。

「エリィ!」

だがもう遅い。エリシアはユーリと共に仲良く草の上に倒れることになった。
いくら考え事をしていたとは言え、何て失態だろう。

こけた拍子にユーリがエリシアの上にのしかかっている状態だった。
まるで押し倒されたようで、エリシアは慌ててユーリから顔を逸らした。

「大丈夫か?」

声が近い。吐息が頬を掠める。頬が熱くなるのを感じた。

「う、うん」

何とか返事はしたものの、声が上擦ってなかっただろうか。ユーリがくすり、と笑う気配がした。恥ずかしい。
穴があったら入りたい気分である。だが身動き出来ないため、ユーリが退けてくれるのを待つしかない。

「笑ってないで退けてくれる?」

なるべく平静を装ってユーリを見上げる。長い黒髪に隠れて見えないが、ユーリが面白そうに唇の端を上げたことだけは分かった。

「さて、どうするかな」

少し意地悪かもしれないが、慌てる彼女を見てユーリの中に嗜虐心が芽生えた。
子供が好きな子ほどいじめたくなる気持ちも分かる。ユーリとエリシアの距離は僅か十センチほど。

草の上に広がった金の髪はとても美しく、まるで光の海のように波打っている。
ユーリの黒い髪とは正反対の明るい色。髪の色だけではない。紫掛かったユーリの黒瞳と満月のようなエリシアの瞳だってそうだ。

光と影のように何から何まで反対だからこそ、こんなにも惹かれるのか。エリシアという存在に。
そこまで考えて、ユーリははたと気づく。

『オレも随分余裕ねえな』

彼女は知らないだろう。自分の想いなど。だがそれでいい。ユーリはこの後、怒られることを覚悟してエリシアの上から退けた。
芽生えた想いに蓋をして。



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あきゅろす。
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