紅炎の公子
悪魔の囁き
「オスティアに!? それがまずいのではないか!! 新オスティア候ウーゼルめは若いながらも、かなりのやり手。あのヘルマンめが、臆病風に吹かれおって! この最後の仕上げ時期に裏切るとは……!! 反乱の準備完了までには今しばしの時が必要なのだぞ!」
ダーレンは怒りの余り震わせた拳を肘掛にたたきつける。
そう全ては上手く行っているはずだった。彼が企んでいたのは言うまでもなくオスティアへの反乱だった。
戦の準備を始めているというのも本当だ。そしてサンタルス候へルマンも反乱に同調した一人だった。
ヘルマンが初めから乗り気でなかったことは確かである。しかし裏切るとは思わなかった。
最終局面に移行しているとは言え、動くにはまだしばらくの時が必要だ。
病により死去した前侯爵に代わり、爵位を継いだのは公子ウーゼル。
まだ二十代と若いながらも、かなりのやり手であることが分かっている。
もしここで報告などされれば確実に潰されるだろう。
反乱の芽を放置しておくほど、新侯爵ウーゼルは愚かではない。
「ですから、オスティア候の耳に入る前に……始末してしまえばよいのです」
それは正に悪魔の囁きだった。エフィデルの提案にダーレンの顔が笑みの形に歪む。
初めからそうすればよかったのだ。そんな簡単なことに気付かなかった自分を、ダーレンは馬鹿らしく思う。
「なるほど……その手があったか! やつがオスティアと連絡を取ろうとすれば、このラウスを通過せねばならんからな。まだ、口を封じる手はあるというわけだ!」
オスティアに向かうにはこのラウスを通過するしかない。
いくら護衛の騎士を連れていたとしても、こちらも手足れの兵を差し向けて殺してしまえばいい。
「ここで、必ずしとめるのです。どんな手を使っても……」
フードの下に浮かんだ怪しげな笑みにダーレンは逆らえなかった。
しかし自分が所詮、エフィデルの手のひらで踊らされている人形に過ぎないことなど、当の本人は知るよしもないだろう。
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