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紅炎の公子

賊じゃありません
エリウッドは優雅ささえ感じさせる動きでならず者の剣を叩き落した。ヘクトルの方は面倒になったのか、武器を叩き落すどころか斧の柄部分で思い切り腹部を殴りつける。
ギィは器用に剣を弾いているし、セーラにいたっては杖で殴りつけているではないか。
セラが扱う光魔法は威力を調節すれば、眼くらましとしても有効だった。

「ぐっ……畜生っ! 覚えてやがれっ!!」

ギィに峰打ちをお見舞いされた男は痛む腹部を抑えて一目散に逃げ出した。
それを皮切りに次々に武器を捨て、他の山賊たちも脱兎の如く駆け出す。しかし、捨て台詞だけは忘れなかった。

「オレたちのシマを荒らしてただで済むと思うなよっ!」

「おう、いつでも来やがれっ!! ってだから俺は、賊じゃねえって言ってんだろうが!」

あいつらの節穴のような目には頭とその手下にでも見えたのだろうか。
だから賊じゃないと何回も言っているだろうが。

逃げようが何しようが、ヘクトルたちは一向に構わない。
もとより向こうから仕掛けてきた戦闘だ。

「あの、大丈夫ですか?」

セラが先ほどから固まったまま動かない男を心配して声を掛ける。
幸い彼に怪我はないようだし、仲間たちも怪我は無いようだ。

「へ? はっ!! た、助かったんですなっ!?」

声を掛けられ、初めて戦いが終わった事に気付いたのか、男はきょろきょろと周囲を見回した。
ならず者たちが全員逃げ出したため、ここにいるのは皆仲間たちだけである。

「暴漢どもは追い払いました。お怪我はありませんか?」

「いや、この通り。おかげさまでピンピンしておりますぞ」

心配そうに尋ねてくるエリウッドに男は何でもないことを見せるように腕をあげて見せる。
彼が無事な様子を見せると赤毛の青年はふわりと微笑んだ。

「それはよかった。では僕たちはこれで。行こうヘクトル、セラ」

外套を翻し、目の前から去ろうとする三人を男は慌てて呼び止める。
命の恩人に何の礼もせずに帰したとなれば行商人の名が廃る。

「お、お待ちくだされっ! なにかお礼を!!」

「お気になさらないで下さい。大したことはしていません」

謙遜する青年にええ、と首を横に振る美しい少女。だがそれでは男の気が済まないのだ。



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