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紅炎の公子

彼を思うなら
一先ずプリシラと別れたレイヴァンは牢に戻ってきていた。理由は勿論、ルセアを迎えに来たからだ。暗い牢獄の中でも一際目立つ金の髪。背を向ける修道士にレイヴァンは声を掛けた。

「ルセア」

「レイヴァンさま! ああ、よくぞご無事で……!」

レイヴァンの顔を見たルセアが輝くばかりの笑顔を浮かべる。
だがそんな彼とは対照的に、レイヴァンは相変わらず感情の読めない顔をしていた。

「事情が変わった。今はとりあえずキアラン側につく」

「よ、よかった……。わかってくださったのですね?」

レイヴァンが復讐を願うのはある意味では仕方ないのかもしれない。だが、ルセアは彼に復讐などして欲しくなかったのだ。だから何度でも復讐を止めてくれるよう懇願した。
しかし彼の決意はかたく、ルセアが何度言おうと首を縦に振ることはなかったのである。

けれど、やっと分かってくれたのだとルセアは安堵の息をついた。
しかし……、

「オスティアへの復讐を諦めたつもりはない。敵の懐にいた方が色々やりやすいだろう」

「レ、レイヴァンさま……」

やはり自分では彼を止めることなど出来ないのだろうか。ルセアは口を開こうとするが、レイヴァンはそれを許さなかった。無視してルセアに背を向ける。

「行くぞ、ルセア」

「……はい」

その背にはありありと拒絶が表れている。ルセアはぎゅっと光の魔道書を握りしめた。
修道士だというのに自分は一番救いたい人を救えない。どんなに祈っても、願っても叶わない。

レイヴァンにあんな表情をして欲しくないのだ。復讐を果たすために彼は躊躇いなく己の手を血で汚すだろう。
だが、優しかった彼と何ひとつ変わっていないのだ。

ルセアには分かっていた。なのにレイヴァンは己の心を殺して自分を偽っている。
本心では復讐など望んでいないはずなのに。

「レイヴァンさま……」

そんな彼の背にルセアは小さく呟く。全てを失った彼には強い感情が必要だった。執着と言っていい。きっと憎しみを糧としなければレイヴァンは生きていけなかったのだ。
だが分かっているのに、ルセアは彼に何も出来なかった。

ただそばにいることだけで。本当に彼のことを思うなら、何としてでも復讐を止めさせるべきだったのだ。
ルセアは血が滲むほど強く唇を噛み締めると、レイヴァンの後を追った。



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あきゅろす。
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