誓約の翼
気に入った二人
「ってここシグの部屋?」
「そう。さっきの事、聞かせてもらおうと思って」
ノルンがハロルドを連れてやって来たのはシグフェルズの部屋である。確かに人はいないし、邪魔も入らない。が、一体何のためにハロルドを連れてきたのだろうか。
さっきの事、が分からぬほどハロルドも鈍くは無い。逆十字を名乗った者たち。ノルンたち見習いには未だ情報は入ってこない。彼女らに知らされるのは全てが分かった後だ。
「ほら、入って」
ハロルドが抵抗する暇もない早業でノルンは彼をドアの向こうに引っ張り込んだ。とは言ってもハロルドに本気で抵抗する気はない。何だかんだ言ってもハロルドはノルンとシグフェルズを気に入っているのだ。
ノルンは不器用ではあるが優しい少女だと知っているし、シグフェルズはハロルドと同じ孤児院(ハロルドとは入れ違いである)で育った弟のような存在だ。
それに教皇猊下からは二人に話すなとの命は受けていない。
部屋にはシグフェルズのルームメイトはいなかった。ノルンはいつも思うのだが、シグフェルズと同室であるロヴァルなる人物と鉢合わせたことがない。
一度だけ会いそうになったが、その時は急いで部屋を出たため、目にしたことはなかった。勿論、授業では顔を合わせているかもしれないが。
「シグ、調子はどう?」
勝手知ったる家のようにノルンはシグフェルズが横になるベッドの近くにあった椅子に腰掛ける。ハロルドも椅子を借りてノルンの隣に座る事にした。
「何? シグってば調子悪かったの?」
「大丈夫って言ったんですけど、ノルンがどうしてもって……」
まじまじと顔を覗き込むハロルドに、シグフェルズはいつものように微笑する。言った瞬間、ハロルドは理解した。シグフェルズの不調の原因は背中の傷にあるのだろう。
彼の背に刻まれた傷は一種の呪い。悪魔に付けられたものだ。先ほどの呪力結界は間違いなく高位の悪魔の力。そしてシグフェルズが付けられた傷も高位の悪魔によるもの。影響を受けたのかもしれない。
「まあ、無理はしない方がいいと思うけど。一応、呪いの一種だからね。ほら、背中見せた」
「いいですよ。大丈夫ですから」
シグフェルズは自分のことになるとどうしても蔑ろにする所がある。本当に何でもないならいいが、呪いと言うものは本当にたちが悪い。手遅れになってからでは遅いのだ。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!