誓約の翼
それが意味することは
あれからヴィオラとハロルドは交代で見回りに当たったが、悪魔と出くわすことはなかった。使い魔が姿を見せたのもあの一回きり。偶然とは思えない。悪魔祓いの力を探ろうとしたのか、それとも何か意味があったのか。目的ははっきりしない。
一夜明け、ノルンとシグフェルズは、二人に呼び出されていた。朝食を取り、村人たちの様子を見た後のことである。わざわざ話があるから、と人払いをして呼んだのならば、それ相応の理由があるのだろう。
「それで、どうしたの? わざわざ呼び出すなんて」
「うーん。それがねえ、昨日の夜、ヴィオラが使い魔と出くわしたみたいでね。オレも交代したけど、それっきり現れてないよ。寝ている二人を起こすのは悪いし、ヴィオラと話し合って朝話すことにしたんだ。怒らないでね」
「使い魔……別に怒ったりしないから」
ハロルドはヴィオラに代わり、昨夜起こった事を話して聞かせた。交代で村を見回っていた二人だが、ヴィオラが使い魔と遭遇したらしい。ノルンは抗議で習ったことを思い返す。
一口に使い魔と言っても様々なものがある。一つは悪魔の力を使って生み出された存在、もう一つは闇の精霊因子を取り込んで魔物、魔精と化した動物や精霊。最後は己よりも格下の悪魔だ。もし村人たちが出会っていれば無事では済まなかったかもしれない。いくら力が弱くとも、使い魔も人の脅威であることには変わりないのだから。
「恐らく悪魔の力で生み出された使い魔だ」
「使い魔はヴィオラが倒したけど、一つ、分かったことがある」
「……なんですか?」
使い魔はヴィオラが倒した直後に消えたらしい。力を与えられた悪魔でも、魔物でもない。分かったことがある、と言ったハロルドは悪魔祓いの顔をしている。その顔に甘さは一切ない。シグフェルズは息を呑んで先へと促す。
「オレが張った結界は、侵入を封じるものじゃない。感知用の結界なんだ。でも……」
「使い魔の気配は突然現れた。それが意味することは……ここまで言えば分かるだろ?」
「悪魔は村の中に潜んでいる」
「ご名答。その可能性が非常に高いね」
ハロルドが昨日、周辺に張った結界は悪魔の侵入を阻むものではない。感知用――悪魔が結界内に入り込めば即座に分かる類のもの。それなのに、使い魔の気配は結界の外から近づいた訳ではなかった。突然、出現したのだ。それが意味することは一つ。つまり、悪魔は村の中に潜んでいる。その可能性が非常に高い。
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