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約の翼
ハロルドの仮面
「手伝わせなくて良かったのか?」

「いいのいいの。子供は寝るのが仕事だから。それに、まだ悪魔の力量も分かってないしね」

 もし悪魔が大した力を持っていないのなら、手伝わせても問題はないだろう。しかし、今の時点では何も分からないのだ。下級悪魔である可能性もあれば、上級である可能性も捨てきれない。いくら授業だと言っても、彼女の命を危険に晒すことは出来なかった。ノルンが何と言おうと、二人はハロルドの教え子なのだから。ヴィオラに甘いと言われるかもしれない。それでも譲れないのだ。

「勝手にすればいいだろ。判断するのはお前だろ? とやかくいうつもりはねぇよ」

「あっらー、珍しい。てっきり甘いって言われるかと思った」

「そんなことわざわざ言う必要もないだろ? 見ればわかる」

 マラキ大司教から一任されているのはハロルドで彼ではないのだが、少しだけ意外だった。最後だけは余計な一言ではあるが。甘いだけでは異端審問官はつとまらない。冷酷にも異端を審問する異端審問官の自分と『ハロルド』の自分。どちらも自身であり、偽りではない。どれもがハロルドの仮面なのだ。ヴィオラにも触れられたくない過去があるように、悪魔祓いであれば大なり小なり抱えているものがある。
 酷いなー、と笑いつつ、周囲への警戒は忘れない。ただ、やはり悪魔の気配は感じられなかった。今夜は何も起こらないかもしれない。そう思いながらヴィオラと歩く。文句を言いつつも、彼はハロルドの隣を歩いている。そうしている内に教戒に着いてしまった。ハロルドは暫く歩くと立ち止まり、ヴィオラの方を振り向く。

「君の実力は分かってるけど、いざという時は無理しないで。ちゃんとオレを呼んでよ? この村にいる間はオレが相棒なんだからさ」

「分かってるならさっさと寝ろ。変に気を回すんじゃねぇよ。それに、オレとあんたは同い年だろ?」

「いやー、ヴィオラがちっさいからすっかり忘れてたな」

 ぴき、と彼の額に青筋が立った気がする。小さいから、は半分冗談で半分本気だ。ヴィオラ自身は気にしているが、背の低さは気になる程度のものではない。あくまで同年代と比べて少々低い、程度のものだ。もっとも、本人にとっては重大な問題なのだろうが。背の低さに関する話題はタブーである。
 うそうそと笑いながらポケットから飴を取り出すと、彼の手に握らせた。甘いものに目がない彼だ。機嫌も直ったことだろう。子供のようだ、とは言わないでおこう。忍び笑いを堪えながら、手を振り、ヴィオラから背を向けた。

「おやすみ、ヴィオラ」



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あきゅろす。
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