誓約の翼
煌く七耀
しかし、ノルンは動こうにも動けなかった。強力な呪力結界で押さえつけられていることもあるが、何より結界の発動者は東塔にいる人間全てを人質に取っていると同意義だ。
だからこそ結界の中で動けるハロルドは動けない。教皇に刃が向けられていることは勿論、彼自身が視線でハロルドを制したのだ。
「何者だ?」
静まり返った、いや、静まるしかなかった塔内で嫌に響くアルノルドの声。するとアルノルドに刃を突きつける聖衣の男は、まるで宣言するように高らかと言い放った。
「……我らは逆十字(アンチクロス)。女神アルトナに仇なす者!」
では何故、彼らはアルノルド以外に武器を向けようとはしない? 女神に仇なす者であるのなら、ここにいる全員が彼らの標的だろう。それとも結界で十分だと言うのか?
ノルンが疑問に思った瞬間、強大な魔力が解き放たれた。未だ刃を押し当てられているアルノルドを中心にだ。
「すごい……魔力」
その絶大なる魔力の奔流は刃を向けていた男を吹き飛ばし、魔力を感じることさえ出来ない人々まで震え上がらせた。圧迫感さえ感じる絶対的な力。これが当代最強と謳われる悪魔祓い、アルノルド・ヴィオンの力だというのか。
『七耀の煌めきよ、我が声に応え具現せよ。プリズム・アーク』
澄み渡る声が響いた瞬間、アルノルドが翳した手に浮かび上がる光の魔法陣。棒立ちになっていた男たちが虹色の光を放つ結晶に封じ込められた。
プリズム・アークは光に属する魔術で、結晶は一種の簡易結界でもあり、強度は術者の魔力に比例する。
つまり虹色の結晶は見た目の美しさとは裏腹に、破ることの難しい光の檻なのだ。
結晶に捕らわれた男の一人、アルノルドに刃を突きつけていた男は自らの喉元に短剣を突き立てようと刃を振り下ろし、そして止まった。
ノルンからはまるで見えない何かに阻まれたかのように見える。
「命を捨てるなんて感心しないね」
声の主は珍しく怒りの表情を浮かべているアルノルド。女神より与えられた命を自ら絶つということは、神を冒涜する行為に他ならない。
そして何より、彼は許せなかったのだ。教皇としてではなく、アルノルド・ヴィオンという一人の人間として。アルノルドは手首に付けていた宝石があしらわれた銀鎖を外して床に叩き付け、結界を発動させた。
『サンクチュアリ』
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