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約の翼
そんな君だから
「村の人たちを苦しめている悪魔は、どんな悪魔なんだろう?」

「……分からない。殆ど分からないことばかりだから。ベリトやハロルドが言っていたサリエルのような悪魔の方が例外なんだろうし」

 悪魔、の一言に緊張など吹き飛んだ。村人たちを苦しめている悪魔は、どんな悪魔なのだろう。力の強い悪魔ならば、もっと派手なことをするかもしれないが、判断するには材料がまだ少ない。ベリトのような悪魔が例外なのだ。
 魔界の大司祭、人と悪魔の契約を承認する筆記者の名で知られる悪魔ベリト。堕ちた天使でありながら、彼はベリアルとシグフェルズの兄の契約を解除した。気まぐれにしてはリスクが高すぎる。アルドの契約相手はあのベリアル。ベリトと言えど無事でいられる保証はない。ベリアルが気に入らないからこそ、契約を解除したのかもしれないが、彼を見た限り、そうでもなさそうだった。アルドの魂が輪廻の輪に戻ったとシグフェルズに教えてくれたくらいである。

「だろうね。……僕はベリアルのような悪魔を許せない」

「それは私も同じよ。まだ形になってない思いかもしれないけど、私もシグのお兄さんのような人を助けたい。悪魔に苦しめられる人を。この手じゃ、全てを助けることなんて出来ないのは分かってる。でも、少しでもいい、出来ることをしたいと思うから。聖人だからじゃなくて、私が私だからそう思う」

 ベリアルなど高位の悪魔からすれば、ノルンたち聖人でさえ脆弱な存在なのだろう。例え力では敵わないと知っていても、命を弄んだベリアルを許せない。そんな権利など、ベリアルにはないのだから。
 これはまだ、ノルンの中でも明確な形となっていない思い。シグフェルズの兄、アルドのような人々を助けたい。悪魔に苦しむ人々を。聖人とは言え、全てを救うことは出来ない。ノルンは女神ではなくただの人間。それを理解していても、この手で助けられる命を助けたいのだ。女神に祝福された聖人だからではなく、ノルンがノルンだから。誰かに強要された訳ではなく、シグフェルズやハロルドと出会い、得た経験から思えたこと。

「そんな君だから、アストリッドも大好きなんだよ」

「大げさよ。別に大それたことをしたい訳じゃないし、シグだって同じでしょう?」

 褒められると、どうしても平静ではいられない。ノルンの思いは何も珍しいことではないはず。シグフェルズだって同じだろう。



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