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約の翼
子供の仕事
 石化の進行を抑える作業は、ハロルドとノルンが行なった。シグフェルズは覚醒して間もないことから、二人が行なったのだ。結果は概ね上手く行ったと言っていいだろう。子どもと老人を除いて、だが。子どもや老人はリスクが高いため、何が起きるか分からない。彼らをそんな危険に晒す訳にはいかなかった。
 幸い、聖人を目にした者はおらず、自分たちの力を魔術だと疑わなかった。ヴィオラに隠蔽魔術を使って貰う必要もない。
 その夜、夕食と入浴を終えたノルンは用意された部屋にいた。結界を張っているとは言え、油断は出来ない。夜の見張りはハロルドとヴィオラが交代で行うそうだ。ノルンは手伝うと言ったのだが、ハロルドが許さなかった。子供はちゃんと寝る、それが仕事だと。彼にすれば子供かもしれないが、大人でもなければ子供でもないと思うのだが。

「ふう……」

 村の人たちが苦しんでいると言うのに、休んで良いのだろうか。いや、分かっている。休める時に休まないといざという時に戦えない。頭では分かっているのだが、焦ってばかり。ただ、やはりハロルドは正しかったらしい。力を使ったことで少しばかり疲労していた。複数相手に力を使うのは気を使う。
 幸い、ノルンは特別に一人部屋を用意して貰ったので、変に緊張することはなさそうだ。いくら何でも皆と同じ部屋は色んな意味で恥ずかしすぎる。熟睡なんて出来るはずがない。まだ眠るには時間が早いが、だからと言って何かをしようにも何もなかった。急な出発だったし、着替えや必要なものしか手元にない。いっそ早く眠るのも手か。そう思った時、扉が開いた。

「ノルン、起きてる?」

「お、起きてるけど……」

 顔を出したのは、簡素な聖衣に身を包んだシグフェルズ。何かあった時にすぐ動けるように、と二人とも寝る間も聖衣を身に着けることにしている。手持ち無沙汰なのは彼も同じらしい。昼間と何も変わらないのに、思わず背筋が伸びてしまう。

「良かったら話しない? 眠るには早いし、することがなくて」

「いいわ。入って」

 ありがとう、と微笑んだシグフェルズは促され、空いている椅子に腰掛けた。教戒内はしんと静まり返っており、余計な音は一切ない。響くのは自分達の声だけだ。さて、話をするといっても、ノルンの方は何を話していいか分からない。変に緊張しているのだろうか。不快ではないが、落ち着かなかった。
 対するシグフェルズは普段と変わらない。余裕のある顔を見ていると、どうしてか狡いと思ってしまう。



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あきゅろす。
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