誓約の翼
守らなければ
「あのお兄ちゃんも、お姉ちゃんと同じ?」
お兄ちゃん、はシグフェルズのことに違いない。ええ、と頷きかけるが、その前にそうだよ、と彼の声が聞こえた。既に話を聞き終えたのだろう。ノルンの隣に並んだシグフェルズは、柔らかく微笑んでいる。
彼の笑顔を見たアイリスも輝くばかりの笑顔を浮かべて色々と質問をしていた。もともと、人懐こい少女なのかもしれないし、シグフェルズの笑みを見れば、警戒心を抱くこともないだろう。
「アイリスちゃんって言うんだね。僕も、君たちの病気を治せるよう頑張るよ。生憎と、魔法は使えないけど。体はどう? 変じゃない?」
「うん、大丈夫だよ。え、そうなの? 女神様におつかえする人は魔法が使えるんじゃないの?」
不思議そうな顔をするアイリスはどこも異常がないように思える。顔色も呼吸状態も良い。けれど、それも油断出来ない。いつまでこの状態でいられるか。
悪魔の力、呪い。咎の烙印とはまた違う。ローテローゼのように特殊な力を持つ悪魔の仕業に違いない。その場合、もっとも気をつけなければならないのは老人と子供である。体力、そして魔術的にも弱く、故に何が起こるか分からないのだ。何か起こった時にいつでも対応出来るようにしなければならない。
「僕はちょっと例外なんだ。魔法は使えないけど、不思議な力は使えるから、それで皆を助けるんだ」
「このお兄ちゃんはこう見えて頼りになるのよ」
彼の肩を叩きながら微笑むと、シグフェルズは苦笑している。こう見えて、と言ったのがまずかっただろうか。見た目は柔らかな物腰の少年だが、彼が頼りになることはノルンも知っていた。
「そうなの? お兄ちゃんもお姉ちゃんもすごいんだね」
「お姉ちゃん――ノルンは僕も助けてくれたんだ」
「……もう、シグったら。大袈裟なんだから」
無邪気に微笑むアイリスを見て、守らなければと思う。聖人だからと言って、全てを救うことは出来ない。それを理解していても、せめて自分の手が届く範囲は助けたいと思うのだ。
シグフェルズはそう言うけれど、助けられたのはノルンの方。彼がいなければ、今のノルンはないだろう。誇らしげな顔をされて、なんと返していいか分からない。すると、背後からとんとん、と肩を叩かれた。
「はぁい、二人とも。お待たせ」
「ハロルド」
ひらひらと手を振っているのは、聖職者の青年と共に消えたハロルド。いつもと同じ、人好きのする笑みを浮かべてはいるが、その表情が少しばかり険しいことに気づく。
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