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約の翼
意外に鋭い人
 二人が洗礼の儀が行われる東塔に着いた時には、既に殆どの見習いたちが集まってた。遅くなったつもりはないが、色々話している内に遅くなったのかもしれない。
 シグフェルズと二人で来たノルンに痛い視線が突き刺さるが、ノルンは全く気にしない。

 どうぜ何をしたって同じだし、何を言っても同じだからだ。それにこんな視線、痛くもなんともない。ただ面倒なだけである。
 一方シグフェルズはそんな視線に気付いていないのか、いつものように微笑を浮かべているだけだ。割と鋭い所のある彼も人から向けられる敵意や好意には疎いらしい。

「どうかした?」

「……どうもしてない」

「気にしない方がいいよ。ノルンは別に悪くないし」

 振り返ったシグフェルズがけろりと言い放った。全く気付いていないのかと思いきや、そう言う訳でもないらしい。
 まだ東塔内には、彼女ら見習い達しかいない。しかし、もう間もなく開場時間だろう。塔とは言ってもその作りは大聖堂と変わりなかった。半球状の天井は見上げるほど高く、吹き抜けとなっている。

 名のある美術家の作品なのだろう。黄昏色に染まる天界に女神アルトナに大天使ミカエルが描かれている。最奥に据え置かれたパイプオルガンは非常に強大で鍵盤だけでも塔内の半分を締めていた。
 両側の壁の半分はステンドグラスが嵌め込まれ、もう半分は天より堕とされた最も美しき天使、ルシファーと彼の右腕的存在であったミカエルがまるで鏡合わせのように描かれている。
 最奥には複雑な彫刻が施された十字架が掲げられており、四方にはそれぞれミカエル、ウリエル、ガブリエル、ラファエルの像が置かれていた。

「ハロルドさん、間に合うかな?」

「大丈夫じゃないの」

 洗練の儀の担当であるハロルドは、数ある聖職者の中から選ばれた十人の内の一人である。その彼が肝心の儀式に遅刻したら本当に洒落にならない。
 心配して一人そわそわするシグフェルズ対し、ノルンはこれっぽっちも心配していなかった。受け答えも適当である。ハロルドなら絶対に間に合うだろうと思ったからだ。



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