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約の翼
物々しい雰囲気
 洗礼の儀が行われるのは教戒内の東塔である。普段、強固な結界で覆われる教戒も今日ばかりは結界が僅かに弱まってしまう。
 表面上は穏やかなものの、通り魔事件のこともあり、教戒は微かな緊張感に包まれていた。それはこうして教戒内を歩いているノルンたちにも分かる。

 しかし、いくら警戒しているとは言え、今日教戒を訪れる人々の数は半端なかった。アルトナ教徒から観光客までその全てを調べるのは無理に等しい。
 だが通り魔事件だけで洗礼の儀を中止することは出来ないのだ。

 普通の人々にとって教皇アルノルド・ヴィオンを目にすることが出来るのは、この聖霊祭と冬に行われる聖誕祭のみ。
 ノルンのような聖職者であっても拝見出来るのは数回なのだから、信者の気持ちも少しは分かるというもの。

「物々しいっていうか、変な感じだね」

 聖騎士の姿もやけに目につく。聖騎士というのはシグフェルズたちのような聖職者ではない。いや、厳密にはそうかもしれないが、役割は全く違う。
 彼らは魔導の才を持たない者がなる、言わば女神に仕える騎士なのだ。シグフェルズも本来なら騎士であったのかもしれない。
 だが悪魔と戦う事が出来るのは悪魔祓いのみ。幸い彼はバクルスの扱いに長け、魔力は持たないが、精霊因子を視ることが出来たため、今この場所にいる。

「通り魔事件で警戒してるのよ。ただでさえ捕まったとは言え、裏に何かあるんだし」

 通り魔が捕まった事さえ、一般の聖職者には伝わっていなかった。
 だがハロルドから教えられた事と相対した悪魔から推測することは出来る。何をしたのかは知らないが、単独犯では到底納得できないものがあるのだ。

 いくら魔術の使い手であっても、教戒の包囲から逃れられるはずがない。しかも総本山である法都シェイアードでだ。
 今まで僅かな証拠すら残していなかった事も考えると協力者がいる。

「何も起こらなければいいけど……」

 周囲を見回しながらシグフェルズが呟く。それはノルンも同感だが、彼らは結界が緩む今日を見逃すはずがない。
 信者や観光客に紛れるにしても、あるいは教戒の人間になりすますにしても絶好の機会だ。

「……今日を見逃すほど犯人も甘くない。協力者が他にいるなら多分、仕掛けてくる」



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