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約の翼
心境の変化
 ハロルドの言う通り、聖霊祭当日まで彼が姿を見せることはなかった。ノルンとシグフェルズはそれまでと何ら変わらない生活を送り、特別授業という繋がりを無くした二人が話す事もなかった。
 聖霊祭と言っても見習いであるノルンたちには殆どすることはない。午後から行われる洗礼の儀で聖歌を歌うくらいだろうか。
 普段は祈りや勉学などに追われる見習い悪魔祓いたちもこの日ばかりは様々なものから解放される。

 それは今のノルンも同じで少しだけ気持ちが高ぶっていた。今までの自分ならそう思わなかっただろう。だが僅かだっていい、自分は変わったのだ。
 面と向かって言うつもりはないがシグフェルズとハロルドには感謝している。他人への不信感がなくなった訳ではない。
 しかし人間も捨てたものではないと教えてくれたのだから。

 ノルンはクローゼットに仕舞ってあった儀礼用の聖衣に着替え、簡単に髪を梳かした。
 儀礼用の聖衣は普段着る聖衣と違い、正装だけあって付けなければならない装飾が沢山ある。
着るだけでも時間が掛かると言うのにまったく面倒臭い限りだ。

 小さくため息をついて全ての装飾を付け、白いストールをかけると最後に金糸の刺繍が施されたミトラを被った。
 まだ見習いであるから装飾も少ないものの、正式な悪魔祓い、例えばハロルドなどは自分よりずっと面倒に違いない。

 鏡でミトラの位置がおかしくないか確認する。儀礼用の聖衣は見る分にはいいが、長い時間着ていると肩がこりそうだ。準備を終え、部屋を出ようとしたノルンの耳に控えめなノックの音が届いた。

 こんな時間に訪ねて来るのはろくなことではない。ノルンは返事をせずに扉を開ける。外に立っていたのは一人の少年。
温かな光を宿す紅茶色の瞳に、彼女と同じミトラが飾られた金に近い不思議な琥珀色の髪が揺れる。
 こちらもノルンと同じ裾の長い儀礼用の聖衣に、白いストールといった装いだ。少年の登場にノルンは酷く驚いていた。ハロルドが戻るまで会わないと思っていたのだから。

「……シグ」




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