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約の翼
決めるのは彼
「手紙?」

「言葉では上手く伝えられなくても、手紙なら心配ないと思うよ」

 アストリッドとノルンは会うことが許されない。けれど、手紙のやり取りは出来る。面と向かって言葉を交わすことはやはり難しいだろう。ましてや五年も会っていなかったのだから。
 でも、手紙なら想いを伝えられる。恐らくはもう少し冷静に。きっとノルンも同じはず。どうしても素直になれないこともあるだろう。
 お節介だと分かっていても、言わずにはいられなかった。彼女達にはすれ違って欲しくない。

「あんたは姉さんの……何なんだ?」

「初めに言ったように同じ悪魔祓い見習いで相棒かな?」

 アストリッドが不思議そうにこちらを見つめている。そんな顔をするのも当然かもしれない。
 言わばこれは当人たちの問題だ。シグフェルズが間に入るべきではないのだろう。

 『何』と言われれば同じ見習いであり、相棒だと言える。ただ、それだけではないのは確かだが。ノルンはシグフェルズにとって特別な存在だ。
 光を教えてくれた人。それが彼女であり、ハロルドでもある。ノルンに対する気持ちはとても一言では表せない。感謝であり、憧れだった。以前のシグフェルズでは手の届かなかった彼女。特別授業がなければ、事実見ているだけだっただろう。

 憧れると同時に嫉妬していた。シグフェルズが望んだ力を持ちながらも、活かそうとはしなかったからだ。でも、それは初めだけで。
 昔の自分からは考えられない変化。こんなにも誰かを思うなんて思いもしなかった。じっとシグフェルズを見つめていたアストリッドが口を開く。

「好き、なのか?」

「好きだよ。彼女は僕に光を与えてくれた。生きたいと思わせてくれた。大切な子だから、力になりたい。君とノルンは二人だけの姉弟なんだから」

 偽ることの出来ない正直な気持ち。それを躊躇いなく口にする。彼女に似た青の瞳から視線を逸らさずに。
 ノルンと出会わなければ、生きたいとは思えなかった。兄と共に死ぬ覚悟だって出来ていたのだ。二人のために出来ることがあるなら、何かしたい。ノルンとアストリッドはただ二人だけの姉弟。シグフェルズとアルドはもう無理だが、彼女たちは違う。

「二人だけの姉弟……」

「そう。でも決めるのは君だ」

 シグフェルズが何を言っても、最終的に決めるのはアストリッド。彼が望まないのならこれ以上、出来ることはない。このまま、ノルンに会わなかったと思って背を向けるのも選択肢の一つだろう。



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