誓約の翼
叶うなら
「確かに力はあるけど、両親は気付いてない。二人とも、力がないから」
「魔導の才を持つ人は少ないから」
魔導の才を持つ者は本当に少ない。両親が才を持たず、子が持つこともある。勿論、逆も。
“瞳”を持たないなら、アストリッドの力に気づかないのは当然だ。現にシグフェルズの両親も兄も魔導の才を持たなかった。
「……ノルンは知ってるよね?」
「知ってる」
「だから、余計にかな。君を突き放したのは。魔導の才を持つ者は大体、学園に通うか、教戒に入るから。多分、魔術に関わって欲しくないんじゃないかな。悪魔祓いにしても、魔導師にしても」
怪訝そうな顔をするアストリッドに説明をする。独学では限界があるため、魔導の才を持つ者は学園か教戒に通う。
ノルンは弟を巻き込みたくないのだ。同じ道を歩んで欲しくないから。悪魔祓いでも魔導師でも命の危険に晒されることもある。いつ命を落とすかもしれないのだ。
ただ、ノルンに直接聞いた訳ではないから、シグフェルズの想像にしか過ぎない。
それでも、ノルンが冷たい人間ではないことを知っている。そう見えたとしても、あえてそう振る舞っているからだ。
「ずっと、複雑だった。姉さんに力がなければ、こんな事にはならなかった。でも、俺たちはきっと死んでいたから」
「……」
ノルンたちを襲ったのは下級悪魔だったという。しかし、いくら下級としてもそれは悪魔の基準で、だ。人には十分な驚異となる。
もし、ノルンが力に目覚めていなければ、彼らは命を落としていただろう。人の身で悪魔に抗うのなら、せめて魔導師や悪魔祓いでなければ。
「アストリッドも魔導の才はいらないと思う?」
「正直、殆ど意識したことはなかったから。……昔はよく言ってたんだ。“魔法使い”になって姉さんを守るって。でも、姉さんがいなくなって、全部どうでもよくなった」
吹っ切れたようにアストリッドは笑う。幼い頃を知らないシグフェルズでも容易に想像出来る。きっと、仲の良い姉弟だったのだろう。微笑ましくて、それ故に胸が痛い。
聖人の力は、彼女から多くのものを奪った。代わりに得たのは人の身に余る強大な力。
シグフェルズもある意味では同じなのだ。兄の死と引き換えに力を得たようなもの。叶うなら、力と引き換えてでも兄を取り戻したかった。
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