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約の翼
繋いだ手
 私服姿のシグフェルズを見てふと思う。殆ど彼の私服を目にしたことがない、と。彼とはもう半年ほどの付き合いになるが、まだ数えるほどだろうか。
 教戒ではいつも黒の聖衣だし、外出する時も同じだ。悔しいが、似合っていると思う。普段はかけない眼鏡も。たかが眼鏡と侮るなかれ。やはり違って見える。だからだろうか。緊張してしまうのは。

「どうかした?」

「別に……。ただ、いつもと違うから」

 不思議そうに首を傾げるシグフェルズはいつもと変わらない。これでは自分ばかり意識しているようで情けないではないか。
 つい顔を背けると、彼が笑う気配がした。

「今日は凄く可愛いよ。リボンも付けてくれてありがとう」

「こんな時じゃないと付ける機会なんてないから。その、こちらこそ……ありがとう」

 優しげな笑みに胸が高鳴ると同時に苦しくなる。何故だろう。肝心な理由が分からない。
 自然に礼を言いたいのに、口を突いて出たのは可愛げの欠片もない言葉。どうしても素直になれず、つい意地を張ってしまう。
 こんなつもりじゃなかったのに。自己嫌悪に陥っていると、そっと手を握られた。

「行こうか」

「……うん」

 驚いたが、振りほどく訳にもいかず、嫌とも言えない。だって嫌ではないのだから。
 自分がこんなにも動揺しているというのに、シグフェルズは顔色一つ変えない。太陽を思わせる笑みを浮かべたまま歩き出す。
 いくら年の瀬であっても、教戒内に聖職者がいない訳ではない。誰か――タイミングが悪ければ、同じ見習いとすれ違う可能性だってある。

 私服だから気付かれない、とはとても思えず、堂々としていられなかった。いつか誰かとすれ違うかもしれない。そう思うと、気が気でない。たかがではない。されど、だ。

「ノルン?」

「その、誰かとすれ違ったら……」

「気にしなくていいよ。僕は見られても構わない。それともノルンは困る?」

 どうにか横顔を見れば、彼は笑っていた。それなのに目が笑っていない。まるで何かに挑むよう。
 以前、シグフェルズは諦念に近いものを抱いていた。必要以上に他人と関わらず、いつも遠くを見ていた彼。兄を解放してからだろうか。不敵な笑みや意地の悪さが垣間見えるようになったのは。

「困らないわよ……!」

「そう、良かった」

 言いきってから気づく。上手くやり込められたと思うのは、気のせいだろうか。シグフェルズの笑顔から真意を探ることは出来ない。ならば、もうどうでもいい。ノルンは半ばやけ気味にシグフェルズの手を握り返した。



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あきゅろす。
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