[携帯モード] [URL送信]

約の翼
たまには息抜きを
「変じゃない?」

 散歩を終えたノルンは、鏡と睨みあっていた。鏡を見つめたまま、後ろにいるであろうラケシスに声を掛ける。磨かれた鏡には仏頂面の少女が映っていた。
 普段は下ろしたままの髪を後頭部で少し結び、残りは後ろに流してある。髪を飾るリボンは、瞳と同じ瑠璃色で、シグフェルズが贈ってくれたものだ。
 こんな機会を除けば、付けることもないリボン。それは分かるのだが、やはり恥ずかしかった。何せ、今からその当人と出かけるのだから。

「可愛いから大丈夫。シグフェルズさんもきっと驚くよ」

「そんな……。大袈裟なんだから」

 今日のノルンは黒の聖衣姿ではない。滅多に袖を通さない普段着。おまけにスカートだ。
 ふわふわした白いコートに淡い紫色のスカート。クリーム色のブーツと何だか落ち着かない。ラケシスは可愛いと言ってくれたが、似合っているか不安だった。

 年末になれば当然、講義はない。特別授業もだ。よって、この時期、ノルンはいつも暇を持て余していた。毎年、図書館で本を借りたりと暇を潰していたのだが、今年は少しばかり違う。
 シグフェルズたちがいる。ハロルドは色々と忙しいのか、聖誕祭以来姿を見せていないが。ルーファスやグレンも同様だ。

 聖人の儀式を終えた後から、シグフェルズは一歩も教戒の外へ出ていない。そんな彼を外出に誘ったのはノルンだった。
 精神的なこともある。たまには息抜きをしてもいいはず。一応、外出許可を求めてみれば、あっさりと許可された。拍子抜けするくらいに。アルノルドが気を利かせてくれたのかもしれない。

「じゃあ、行って来ます」

「行ってらっしゃい、ノルン。楽しんできてね」

 照れを隠すように笑い、急いで部屋を出る。扉を閉めて前を見た瞬間、視界に入った人物。シグフェルズが目の前にいた。
 出来ればもう少し後に会いたかった相手。彼もまた普段着である。
 暖色のファーのあるフード付きのコートにジーンズ。細いフレームの眼鏡を掛けていた。

 目は悪くないため、度は入っていない。二人とも聖衣ではなく普段着なのは、街に出ても意外と気付かれないだろうから。
 人は先入観というものを持っており、街中に聖人がいるはずがない、と勝手に思い込んでくれる。便利なもので、違和感を感じたとしても、いいや、まさか気のせいだろう、と。ちなみに眼鏡はノルンの提案で、細やかな変装だ。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!