誓約の翼
剣呑な二人
そこは贅の限りを尽くされた玉座の間だった。敷かれた絨毯は複雑な金糸の刺繍が施され、柱に使われているものは間違いなく金、嵌め込まれているのは大粒のルビーである。炎の海の中にいるような錯覚を起こしそうだ。
金と赤で作られた間の中央、玉座に腰掛けるのは一人の男。外見上の年齢はパイモンよりも僅かに上、二十代半ばほど。息をするのさえ忘れてしまうほどの美貌の持ち主だった。適度に筋肉のついたしなやかな肢体。緩やかに曲線を描く朱がかった金の髪は背中を流れ、まるで光の帯のように煌いている。
蠱惑的な色を宿す赤紫の瞳は長い睫毛に縁取られていた。
「西の王であるお前が何の用だ? パイモン」
「ルシファー様からご命令を受けてここに来ました。ベリアル、いいえ、『炎の王』、『虚偽と詐術の貴公子』よ。貴方ほどの悪魔がヒトと契約しているようですね。……しかもそれを何年も隠していた。どういうことです? 答えによっては裁きを受ける覚悟は出来ているのでしょうね?」
見下ろされる形となるパイモンは、心底嫌そうな表情を浮かべている。ただでさえ地位だけで言えば、シオウルの支配者である彼より西を治める彼女の方が上なのだ。
それに加え、他の悪魔に対して態度の悪いベリアルをパイモンは嫌っている。敬愛するルシファーの命でなければ近付きたくもない相手だというのに。
「逐一報告する義務はないだろう?」
薄い笑みを貼付けてベリアルは言った。確かに彼の言う通り、契約したことをルシファーに報告する義務はない。
だがベリアルほどの力を持つ悪魔となれば別だ。ベリアルは美しい外見をしているが、口に出す言葉は殆どが偽り。
パイモンやルシファー、彼の腹心であるベルゼブルにアモンはベリアルを“敵”だと認識している。
「ええ、ですがお前ほどの悪魔となれば別です。私は確かに伝えましたよ。ルシファー様への申し開きは自分自身の口から言ってください。それでは」
パイモンはこれ以上、話もしたくないと言った風に用件だけ伝え、そそくさと身を翻す。
二人の間に流れる険悪な雰囲気の中、ヒトコブラクダだけが我関せずと言ったようにマイペースに欠伸をした。
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