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約の翼
彼女たちの隣で
「そんなに驚くことないと思うけど……」

瑠璃色の瞳を見開くノルンに対し、シグフェルズは心底不思議そうな顔をしている。嘘なんてついていないし、思ったことを口にしただけだ。初めて会った時、彼女は女神を信じていないと言っていた。それでも、彼女が歌う聖歌はどこまでも澄んでいて、綺麗だから。

シグフェズはきっとノルンのようにはいかない。彼女のように歌うことなど、出来そうもなかった。両親が死に、兄が契約者となった時、それまで『シグフェルズ』を支えていた全ては砕け散った。
何度思ったことか。なぜ、自分たち家族だったのか。どうして、両親が死ななければならなかったのか。

運命を呪ったこともある。理不尽な現実、二度と戻らない大切なもの。それら全てを封じ込めて、ただ神を讃える歌を歌うことなど。今だって上手く歌えているかどうかなんて分からない。
本当なら、シグフェルズは聖職者、そして聖人である資格すらないのかもしれない。こんな穢れた自分は、聖人には相応しくないのではないか、と。

「いつまでも君の歌を聞いていたいと思うよ。叶うなら、ただのシグフェルズとして」

「シグは自分を卑下にし過ぎてる。もっと胸を張ってもいいじゃない。聖人の力なんて本当はない方がいいけど。シグが望むなら、いくらでも歌ってあげる。……ただし、二人きりの時に」

シグフェルズの考えを読んだようにノルンは言う。照れたように視線を逸らすノルンはとても可愛かった。長い間、人と深い繋がりを避けていた彼女は、褒められるのが苦手らしい。後は礼を言われることも。
皆の前で、ではないのはきっと恥ずかしいから。

「す、凄い……」

「そこは感心する所じゃないだろ、ラケシス」

「だってシグフェルズさん、ノルンの扱いがうまいから」

何故か感嘆の声を上げるラケシスと、そんな彼女を小突くクロト。こそこそと話していても、この距離だ。聞こえないはずがない。ノルンが立ち止まり、満面の笑みを浮かべてラケシスの両肩を掴む。

「しっかり聞こえてるわよ。ラケシス」

「す、すみません……!」

そんな二人を見てシグフェルズが笑うと、クロトもふと表情を和らげた。明日もまた自分は同じように笑えているのだろうか。他でもない彼女たちの隣で。



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