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約の翼
過ぎた代物
「よ、お二人さん」

聞き覚えのある声に振り向けば、聖職者らしくない青年が佇んでいた。黒に近い紺の髪を丁寧に撫で付け、儀式用の白の聖衣を纏っている。ただきっちりと着こなしているとは言い難い。窮屈なのか、胸元は寛げられているし、ミトラは被ってすらいなかった。
耳にはピアスが見える上に、指輪もつけている。普段の格好よりは幾分かましなものの、少しばかり派手だ。

「相変わらず凄いカッコだな、グレン」

「儀礼用の聖衣は窮屈なんだよ」

ハロルドが呆れたような眼差しを向けても、グレンはけろっとしている。悪びれる様子など一切ない。少しでもそんな気持ちがあるのなら、そもそもそんな格好などしていないだろう。
ただ、グレンの言うことにも一理ある。確かに装飾も多く、窮屈だ。普段の服装を考えると、彼は人一倍窮屈に感じるのかもしれない。

「で、どうだ。嬢ちゃんたちは?」

「彼らなら心配いらないだろう?」

「勿論。オレの自慢の教え子たちだからね」

グレンの言う、嬢ちゃんたち、とはノルンとシグフェルズのことだ。彼はこう見えて面倒見がいい。気にしない風を装っていても、やはり二人が心配だったのだろう。顔のお陰で若干損をしているが、彼が慕われる理由も分かる。珍しく彼本来の笑みを見せるルーファスに、ハロルドも勿論、と頷く。
苦しんでも、立ち止まっても、彼女たちなら大丈夫。そんな確信がハロルドの中にはあった。

「それは分かってるけどねぇ。過ぎた代物だろ? 聖人の力は。人が持つにはな」

「うわあ。堂々と言ったね、この人」

聖人の力は強大。十代の少年少女が背負うにはあまりに大きすぎる。それについてはハロルドも同感だが、こうも堂々と口に出すグレンに驚きを隠し切れない。身も蓋もないとはこのことだろう。一応、目の前に聖人(ハロルド)がいるというのに。
これには流石のルーファスも驚いたらしく、菫色の瞳を見開いたまま、沈黙している。

「別にいいじゃねえか。減るもんじゃなし」

「オレの神経が擦り減りそうだよ!」

「……ここにお偉いさん方がいなくて幸運だな」

不思議そうな顔をするグレンを指さすハロルドと、思わず頭に手を当てるルーファス。今、大聖堂の中にいるのは、所謂普通の悪魔祓いと聖職者、そして聖騎士である。もし大司教たちや枢機卿の耳に入れば実に笑えない。ハロルドたちもお偉いさん方が好きな訳ではないが、表立って口にはしない。それなのにこのグレンという男は。一体、彼が恐れるものとはなんだろう。



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あきゅろす。
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