誓約の翼
自分は自分
「別に俺だって、仕事熱心な訳じゃない。あちらより、こっちに近いな」
「うそー。ルファってば真面目じゃん」
適当に返事をするハロルドに、ルーファスは首をすくめてみせる。彼らのように仕事熱心ではないし、どちらかと言えばハロルドに近い。苦笑するルーファスに対し、ハロルドはわざとらしく唇を尖らせていた。普段の仕事ぶりから見ても、不真面目には程遠いではないか。
『銀狼』ルーファス・マクレイン。彼が異端を逃したことは一度もない。その仕事ぶりは言うまでもないだろう。まるでとり憑かれているかのように、彼の仕事はいつも完璧だった。
「真面目とは少し違うさ」
「そうかなあ。十分真面目だと思うけど。なに、ルファも最終確認?」
それでもルーファスは、真面目とは少し違うと笑っていた。ハロルドにすれば、十分真面目に見えるのだが。ハロルドはこの寒い中、大聖堂の外で警備に当たることになっているが、彼は中である。他の悪魔祓いたち同様、最後の確認に来たのだろうか。ならば少なくても不真面目ではないはず。
「一応は。ハロルドこそ同じだろう?」
「そりゃそうだけど……。ルファってホント態度変わらないねえ。これでもオレ、前は天使なんだけど」
同じだろう、と笑うルーファスを見ながら、何とも言えない顔をするハロルド。疑問に思っていたことがある。彼の態度だ。ハロルドの前世が天使だと知って尚、彼の態度は変わらない。
もしこれが献身なアルトナ教徒なら、跪いてもおかしくないというのに。もしや話を信じていないのか、それとも何かあるのだろうか。不思議そうなハロルドに対し、ルーファスはさも当然とばかりにこう言った。
「それがどうした。今はハロルドだろう? 前世が何であろうとな」
「うっわー、おっとこ前〜! 嘘だって、嘘。そんなに睨まなくても」
冗談交じりに笑うハロルドだが、ルーファスに睨まれ、一転して苦笑いを浮かべる。それでも本心は彼に感謝していた。ただそれを素直に表に出せないだけで。
前世が天使だろうと何だろうと、自分は自分。ハロルド自身がそう思っていたし、今でもそう思っている。それでも誰かに言ってもらえるのは嬉しい。
「睨んでないさ。いきなりなんだ? そんなこと聞いて」
「別にただ思っただけ。何となくだから、気にしなくていいって」
ルーファスは睨んでないと目を細めた後、怪訝そうな表情を浮かべる。嬉しかったなんて口が裂けても言えない。それに素直に礼を言うなんて、ハロルドの柄ではないのだ。だから、いつもの皮肉めいた笑みを作って笑う。何となくだからと。
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