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約の翼
ありのままの自分
ノルンの視界に入ったのは、どう見てもシグフェルズ。ノルンたちと同じように、儀式用の聖衣を身につけている。金糸の刺繍が施された聖衣とストール。そしてミトラ。驚くノルンとラケシスをよそに、シグフェルズはのほほんとしていた。
シグフェルズのお披露目は聖誕祭の後だ。だと言うのに、彼がここにいていいのだろうか。それこそ、最終調整やらが必要ではないのか。そんなノルンの心を読んだように彼は笑う。

「聖誕祭にはちゃんと参加するよ。準備はそれからでも全然間に合うから。僕だって悪魔祓い見習いだし。『今』はただのシグフェルズだからね」

「それはそうだけど……大変でしょ?」

シグフェルズは大丈夫だと笑うが、儀式で聖人が纏う衣装は複雑な上に結構重い。装飾は勿論、杖も持つ必要があるからだが、着るだけでも時間が掛かるのだ。悪魔祓い見習いの聖衣など目ではないくらい。
初めにアルノルドによる話があると考えても、時間ぎりぎりではないのか。

「着替えを手伝ってくれる人もいるから心配ないよ。それに、聖誕祭の途中で抜けたらおかしいし。どうせ直ぐに分かるんだけどね」

「シグ……」

シグフェルズの笑顔が僅かに陰る。理解していても、受け止められるかどうかはまた別問題。
覚悟を決めていても、恐怖を感じない訳ではないのだ。何度も何度も自分に言い聞かせたって、感情だけはどうにもならない。

ノルンは微かに震える彼の手に、自らの手を重ねた。絶対に大丈夫なんて言えるはずがないだろう。絶対などこの世にはない。
それでもノルンは彼の背中を押す存在になりたかった。シグフェルズがノルンに力をくれたように。

「絶対に大丈夫なんて言えない。でも、そばにいるから。私が言いたいのはそれだけ」

「わたしは皆さんのお陰で自信を持つことが出来た。まだこの力は恐いけど、逃げても何も変わらない。だから、シグフェルズさん、わたしも一緒に支えます。ノルンやクロトと一緒に。貴方は一人なんかじゃない」

「ああ。どんなに格好悪くても、隠すな。無理をする必要もないし、ありのままのお前でいればいい。それが友人だろう?」

ノルンとシグフェルズの手に、ラケシスとクロトも己の手を重ねる。どんな結果になろうとも、ノルンは彼のそばにいると誓った。

シグフェルズは孤独ではない。ラケシスが出来ることなどほんの少ししかないのだろう。
けれど、ほんの少しでも力になれる。一緒にいるだけで救われることもあるのだ。クロトがラケシスのそばにいてくれたように。そしてクロトも。自分たちの前では格好をつける必要はない。どんなに格好悪くてもいいではないか。
無理をするよりずっといいはず。

「ノルン、ラケシスさん、クロト……ありがとう。僕はありのままの僕でいるよ。君たちがいてくれるなら、きっと怖くても立ち向かえる」

重ねた手から伝わるぬくもりと想いに、シグフェルズは笑った。泣きそうになりながらも。



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あきゅろす。
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