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約の翼
相棒だから
「今日、ですね……」

「……そうね」

窓越しに舞い散る花びらのような雪を見ながら、ラケシスが呟く。彼女が言いたいのは勿論、シグフェルズのことだ。
シグフェルズは今日、『聖人』となる。嫌が応でも。
誰もが通る道。ノルンやハロルド、アルノルドだって。

「でも決めたから。シグを支えるって。きっとこれからも迷って、不安になるかもしれない。それでも私はシグの相棒だから」

ノルンは、視線を窓からラケシスに戻す。決めたのだ。シグフェルズを支えると。
不安がない訳ではない。これから先のことも。
きっと不安になるだろうし、迷ってしまうだろう。でも側を離れるという選択肢は存在しない。ノルンの相棒はシグフェルズ以外あり得ないのだ。

「その意気だよ。ノルンならきっと、シグフェルズさんの支えになれる。わたしやクロトも力になるから」

「ありがとう」

自分を励まそうとしてくれるラケシスに、ノルンは微笑んでありがとう、と言った。いくらか素直に言えるようになったありがとう。
支えてくれる人がいる。それだけで人は強くなれるのだ。現にラケシスだって。以前の彼女なら、決して口にしなかった言葉。
“わたしも”力になる。

「そろそろ行きましょう。私なら大丈夫だから」

「ノルン……。うん……」

ラケシスにまで心配を掛けたくない。大丈夫だと言い聞かせて、部屋を出ようとする。
その直後、扉をノックする音がした。恐らく、クロトが迎えに来たのだろう。ラケシスを大切にしているのは分かるが、彼の場合、もう少しそれを表に出すべきだ。

「はーい。行きましょう、ノルン」

「ええ」

ラケシスに続いて歩き出す。彼女が扉を開けると、“白”が視界に飛び込んで来た。それは訪問者が儀式用の聖衣を纏っているからだろう。
姿を現したのはクロト。耳飾りだけは普段と変わらないが、ノルンやラケシス同様、白い聖衣姿だ。

こうしてみると、整った顔立ちも相まって、似合っている。薄い灰色の髪は雪のようだし、瞳も光を浴びた薄氷を思わせた。これで愛想がもう少し良ければ、女性に大人気だろう。

「文句があるなら言え。どうせ似合わないだろう」

「別に似合わないなんて、一言も言ってないじゃない」

クロトの視線はラケシスではなく、ノルンに向いている。しかも文句とは何なのか。似合わないなど一言も言っていないというのに。
何ともしがたい空気が流れる中、誰かがクロトの後ろから顔を見せた。琥珀色の髪に紅茶色の瞳を持つ少年。なんとシグフェルズだったのだ。

「二人とも、今日は聖誕祭なんだから、そのくらいに」

「シグ!」



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