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約の翼
嫌いではない
一通り準備を済ませて最後にもう一度、鏡を見ておかしな所がないか確認した。ミトラもずれていないし、つけ忘れた装飾もない。鏡の中から、紫掛かった銀色の髪の少女がノルンを見返している。以前は鏡を見ることさえ嫌だった。鏡を見れば、嫌でも自分の顔を見てしまう。
光に愛され、選ばれた『自分』が酷く嫌だったのだ。どうして自分なのだろう、どうして他の誰かではないのだろう。そればかり考えていた。考えてもどうにもならないことなのに。

でも今はそんな自分が嫌いではない。どんなに否定しても、ノルンはノルンで聖人なのだ。じっと鏡を見つめて笑ってみる。すると、鏡の中から少女がぎこちなく笑みを返した。
笑おうと意識しては余計に駄目らしい。笑顔を作ることを諦めて扉を開ける。

「おはようございます、ノルン」

「おはよう、ラケシス」

真っ先に視界に飛び込んできたのは、ノルンと同じく白い聖衣に身を包んだラケシス。今日は普段とは違い、髪を結わずに下ろしていた。左目を覆う眼帯も黒ではなく白である。
こうして見ると、彼女には黒よりも白が似合っているのかもしれない。決して黒が似合わない訳ではないが、どちらか、と言えば白だろう。

「眼帯も白なんだ」

「はい。流石に白に黒はちょっと……。変じゃない?」

「変じゃない。似合ってる。可愛い」

似合ってる、とノルンが言えば、ラケシスはありがとう、とはにかむように笑った。ノルンなどよりずっと似合っている。清楚、という言葉が似合うだろう。
手放しにで褒められ、居たたまれなかったのか、ラケシスはどうにか話を逸らそうと窓を指さす。

「ほ、ほら、ノルン。雪降ってますよ……!」

つられた訳ではないが、窓に目を向けると、窓の外にはちらちらと雪が舞っている。聖誕祭に雪が降るのは久しぶりではないだろうか。子供の頃は雪が降るだけで嬉しかった。あの頃は寒さも忘れて、友人や兄弟と外を駆けまわったものだ。
昔を思い出しそうになり、慌てて考えるのを止めてラケシスを見る。

「……ラケシス。敬語」

「ええっと、ごめんなさい」

敬語を使わなくていい、と言ったのに、癖なのだろう。ふとした瞬間に、敬語に戻っている時がある。
クロトとは自然で話しているのに、何だか悔しい。ラケシスはそんなノルンの思いなど露知らず、苦笑いを浮かべていた。



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