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約の翼
光に愛された者たち
自分に何が出来るだろう。ここ最近は、そればかり考えていた。『ノルン』は聖人の力を持つただの子供でしかない。悔しいがそれが事実だ。どんなに守りたくても、自分の小さな力では、彼を傷つける全てから守ることは出来ない。力があったなら、全てを守ることが出来るのだろうか。
答えは否、だ。例え強大な力を持っていたとしても、守れないものもある。世界は時に残酷で不条理に溢れていた。絶対などない。

聖人。光に愛された者であり、女神アルトナの使徒。力の覚醒に信仰心は関係ない。聖人の名を冠してはいるが、魔術のように生まれ持った才が必要になる。現在、教戒に属している聖人は五十にも満たなかった。それだけ聖人は数少ないのだ。
だからこそ、力が覚醒した場合は教戒の保護下におかれる。力の制御を学ぶのは勿論、悪魔から守るため。

聖人は儀式を経ることで、初めて聖人と認められる。皆が通った道であり、ノルンやハロルドも当然行なっていた。ここ数年、新たな聖人は現れていない。ノルンが最後であったことを考えると、実に五年ぶりだった。
五年前のノルンは果たしてどんな気持ちで、儀式に臨んでいたのか。思い出そうとしても、殆ど覚えていなかった。

家族と引き離され、知っている人物もいない。孤独だった。自分から歩み寄ることなど出来なかったし、周りの人物は皆、ノルンより年上である。
だがノルンとシグフェルズは違う。今日、彼を取り巻く全てが変わるだろう。良くも悪くも、聖人として見られることになる。

同じ見習いであっても、いや、だからこそ、彼らの態度も変わるに違いない。彼らは聖人を敬い、自分たちとは違う存在だと言い聞かせるのだ。でなければ、人が持つには、あまりに強大すぎる力に畏怖を抱くしかない。同じ血肉を持った人間なのに。

そこまで考えて、ノルンは思考を中断した。いつも身につけている黒の聖衣を脱ぎ、儀礼用の聖衣に着替える。儀礼用の聖衣は白で統一されているため、ノルンの聖衣も言うまでもなく白。
控えめながら金糸の刺繍が施されており、見習いであっても存外装飾が多い。

着るのは初めてではないし、何度も着ているのだが、それでも面倒なものは面倒だ。ただ、流石にこればかりは、ラケシスに手伝ってもらう訳にはいかなかった。
どうにか装飾も全て身につけ、金糸で刺繍されたストールを肩にかける。最後は簡単に髪を整えてミトラを被った。



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あきゅろす。
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