誓約の翼
一度として
「それで、彼の方はどうだろう? まだ力に慣れていないようだけれど……」
「ええ。難しいでしょうね。聖人の力は人が扱うにはあまりにも大きい。そう簡単には制御出来ないでしょう」
アルノルドの問いにハロルドは頷き、シグフェルズの訓練について話した。聖人の力は人が持つにはあまりにも大きい。力が強ければ強いほど制御は難しくなる。
おまけにシグフェルズは魔術を扱うことが出来ない。『力』を引き出すことさえ容易ではなく、制御までは到底至らない。しかしこればかりは誰も助けられないのだ。同じ聖人でさえ。
「……訓練を重ねるしかないだろう。完全とはいかずとも、せめて己の身は守れるように」
「私も出来うる限り、力になりたいと思います」
考えたくはないが、シグフェルズはベリアルに目を付けられている。未だ彼の悪魔に表立った動きはないものの、油断は出来ない。
悪魔は気まぐれだ。いつベリアルの気が変わるか分からない。
仮に力を制御出来るようになったとしても、ベリアルを退けることは叶わないだろう。
いくら聖人とは言え、人と『炎の王』では力が違いすぎる。
だが身を守る力を持つと持たないとでは雲泥の差があるだろう。
自分の身を守るためにも、彼には出来る限り、早く力を制御してもらわなければならない。
「……ハロルド。君は私を恨んでいないのかい?」
「猊下?」
「君に悪魔祓いの道をすすめたのは私だから」
ハロルドを見るアルノルドの瞳は、どこまでも優しい。かつて聖人として覚醒したハロルドは、悪魔祓いの道を志した。アルノルドとは聖人として覚醒する前から顔見知りであり、ハロルドを鍛え上げたのも彼である。
感謝しているし、恨むなどとんでもない。アルノルドがいたからこそ、今のハロルドがあるのだ。
「私が今、ここにいるのは猊下のお力によるものです。一度として恨んだことなどありません」
ハロルドは心に浮かんだ言葉をそのまま声に出す。アルノルド・ヴィオンという存在がどれだけハロルドの力になったのか、彼は知らないのだろう。
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