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約の翼
聖人の儀式
シグフェルズと別れたハロルドは一人、アルノルドのもとを訪れていた。とあることを確認するために。
ノルンやシグフェルズは一応、ハロルドの教え子になる。教え子ではなかったとしても、気にかけている二人だが。

「ハロルド?」

「猊下にお聞きしたいことがあって参りました。シグのことです。……いつになさるおつもりで?」

顔を上げたハロルドは、単刀直入に尋ねる。こればかりは他の誰にも聞けない。それでなくても、まだその事実を知るのは限られた数人なのだから。

シグフェルズが聖人であることは伏せられている。だがいつまでも隠しておけない。では一体、それはいつなのだ。
正式な聖人と認められるには、教皇の命により、儀式を執り行わなければならない。

一種のお披露目のようなもので、聖人は必ずこの儀式を受けなければならないのだ。避けては通れない。
ハロルドやノルンも通った道だ。高潔な他の聖人は違うかもしれない。だが二人にとっては苦痛でしかなかった。

「……聖誕祭の後に執り行おうと思っている」

聖誕祭にはもう二ヶ月もない。おまけに名は当日まであかされないが、掲示はされてしまう。
新たな聖人が現れたことを人々に伝える意味である。

いつまでも先延ばしに出来ないのは、ハロルドとて分かっていた。聖人は人々を照らす光。
だがシグフェルズには未だ時間が必要だと言うこともハロルドは理解していた。

「……そうですか」

「急かす訳ではないが、どこかで踏ん切りを付けなければならない。辛いだろうが、私にしてあげられることは何もないんだよ。君や彼を苦しませることになろうとも、教皇としてなさねばならないことだ」

シグフェルズに時間が必要だということは、アルノルドも分かっている。両親を契約者となった兄に殺害され、その兄も悪魔に操られ、最後には命を落とした。
考える時間、悩む時間も必要だろう。しかしいつかは彼に聖人として立って貰わねばならない。

教皇として命じなければならないのだ。望む、望まないに関わらず。シグフェルズやハロルド、ノルンの苦しみを知っていたとしても。
アルノルド・ヴィオンは教皇なのだから。全てに平等でなければならない。

「どうかあの子たちを支えてあげて欲しい。私の代わりに」

「御意。……猊下に言われるまでもありませんよ」

頭を垂れたハロルドは顔を上げた後、堪えきれなくなったように破顔した。彼らのそばにいるのは命令だからではない。何よりハロルドが彼らの成長を見守りたいと思うから。



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