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約の翼
自己満足
「そ、その……。あの……」

恥ずかしいなんてものではない。正面からシグフェルズの顔を見ることが出来なかった。自分らしくない。そう思うのに顔を上げられない。
だがそれは彼も同じだったらしく、我に返って慌てて謝る。

「僕の方こそごめん……! すぐに着るから」

それから互いに無言だった。正に針のむしろ。何を言っていいか分からなかったし、かといって出ていくことも出来ない。
聖衣を身に付けたシグフェルズから目を逸らしたまま、口を開く。

「……それで、どう? 力は上手く制御出来てるの?」

自分でも白々しいと思うが、他に話題は見つからなかった。すると彼もほっとしたらしい。小さく息を吐く音がする。
シグフェルズはそうだね、と言葉を切ってしばし考えていた。

「上手くはいってないかな。僕はノルンと違って魔術も使えないし、感覚が掴めないんだ」

「そう……」

聖人の力は人が持つにはあまりに強大。その力を制御出来なければシグフェルズ自身が危うい。魔術と聖人の力は別物ではあるが、感覚的には似ている。
魔力と聖気の違いはあれど、どちらも己に宿る力を引き出すのだから。
助言したくても、ノルン自身、力を完全に制御出来ているとは言い難い。

「でも、諦めるつもりはないから。この力でどこまで出来るか分からないし、きっと自己満足なんだと思う。けど自己満足だっていい。僕のような人を一人でも減らしたいんだ」

「自己満足でいいじゃない。私だってこの力を自分のために使ってるんだから」

諦めるつもりはない。そう言ったシグフェルズの紅茶色の瞳は揺るぎ無い光を湛えていた。そんな彼を見てノルンは困ったように笑う。
自己満足でいいではないか。人間とはそんなものだ。本当に心から他人のためだけに力を使う人間なんていない。

ノルンだって人々の力になろうなんて大層な考えは抱いていなかった。聖人の力だって自分の身を守るために制御しているに過ぎないし、シグフェルズのために力を使ったのも自分がそうしたかったから。
忌まわしいと思っていた力のお陰で彼を守ることが出来たのだ。

「そうだね、ノルンの言う通りだよ。うん、やっぱり君は凄い」

「どこが? 別に凄くないと思うけど」

何故か感心しているシグフェルズに理由を尋ねても答えは返って来ない。はぐらかせるように淡く笑うだけだった。



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