[携帯モード] [URL送信]

約の翼
同じ力
「聖人……」

 五人の少年少女をじっと見据えていたノルンがぽつりと呟いた。瑠璃色の瞳は五人の中のただ一人に向けられている。
 すぐに気づいた。彼は『普通』ではないと。そんなノルンにシグフェルズは不思議そうな顔をしている。

「え?」

「茶の髪の彼……私と同じ聖人」

 茶の髪の彼、と言うのは優しげな面差しをした深緑の瞳の少年のことだろう。
 聖衣を纏っていないことから教戒の者ではない。
 だが何故だろう。ノルンもシグフェルズも彼に見覚えがあるような気がしてならなかった。

 聖人と言うのは魂の資質だというが、こうして離れていても分かる強い力だ。
 しかしまだ覚醒はしていない。
 会話までは聞こえなかったが、こちら気付いたらしいハロルドが二人に視線を向ける。僅かな口の動きから、ノルンは彼が何かを言ったのが分かった。

「そこ……で待て?」

 多少とは言え、ノルンにも読唇術の心得はある。
 自分達の様子を見て何かに気付いたのかもしれない。こちらを一瞥したハロルドの顔は真剣そのものだった。
 後ろに控えていた二人の騎士がライトブラウンの少年を連れ、いずこかへ消えて行く。
 残された四人は大聖堂に向かってようでハロルドが踵を返し、こちらに向かって来た。

「シグ、無理はするなと言っただろ。一体何があった?」

 ハロルドの視線はシグフェルズ、正確には背中に向けられている。
 普通なら一見したところで気付きはしないだろうが、ハロルドは血の匂いを敏感に感じ取った。
 シグフェルズは街での出来事をを包み隠さず打ち明ける。
 通り魔との何らかの関係があると考えられる悪魔の存在、聖人であるノルンの力を破ったことまで。

「……先ほど、通り魔と思しき人物が拘束された。だがこれまでの事件を一人で起こしていたとは考えられない。何らかの繋がりがあると考えてまず間違いないな。悪魔についてはオレから報告しておく。ノルンちゃん、シグを部屋まで頼める?」

「分かった。……でも一つだけ。あれはただの悪魔じゃない。下手をすれば公爵級かもしれない」

 これまで起こった通り魔事件は決して少なくない。これまでの事件をたった一人で起こしていたとは考えづらいだろう。
 たった一人に破られるほど教戒の包囲は甘くない。協力者や仲間がいると考えるのが自然だ。
 そう、例えばノルンとシグフェルズが相対した悪魔のような。

 ノルンと戦ってもなお、あの青年は本来の力の何分の一さえ出していなかった。
 人間など初めから相手にする気がなかったのだろうが。彼らにとって邪魔になるはずの自分達すら見逃したのはただの気まぐれか、それとも……。

「だろうね。悪魔の言葉からすると心配ないと思うんだケド、しばらくの間は一人で行動しちゃ駄目だからね。胆に銘じて置いて」

 ハロルドが言うように、悪魔の気が変わる可能性だってある。教戒の中にいる限りは安全だろうし、複数だから大丈夫だと言う保障もないが、一人よりはマシなはずだ。ノルンとシグフェルズは一にもなく頷いたのだった。



[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!