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約の翼
聖人の翼
例えるのなら白と青だけで満たされた空間だった。壁や天井すら透明感のある青色をしており、言葉ではとても言い表せない、美しい『蒼』をしている。
長時間ここにいると目が錯覚を起こしそうだ。
室内には何もなく、調度品すらも置かれていない。唯一、天井のファクター・デバイスが淡い光を放っているだけだ。

『大天使級第二簡易結界(アークエンジェルズ)展開。いつでもどうぞ』

抑揚のない声が響いたかと思うと、青の天井と床に金色の魔法陣が描かれる。複雑でどこか優美なそれは、悪魔を封じる大天使級結界の証。
羽音ともつかぬ鈍い音がした直後、薄い膜のようなものが部屋全体を包んでいることが確認出来た。

部屋の中央に佇むのは一人の少年だ。ちゃんと足は床についているというのに、今にもふわりと飛び立ちそうなほど軽やかだ。
淡い光を弾いて輝く琥珀色の髪に、透明感のある紅茶色の瞳をしている。

服装は彼が普段纏っている黒の聖衣ではなく、それよりも薄い白の長衣。大天使級簡易結界は聖人の強大な力が外部にもれないように張られたもの。
少年――シグフェルズは珍しく緊張していた。普段の実技よりずっと緊張する。

シグフェルズは優秀な悪魔祓い見習いではあったが、特別な力は何一つ持っていなかった。唯一あるとすれば精霊因子を目視出来るこの瞳くらいか。
だから何度この場に立ってもまだ慣れない。この力にも、聖人としての自分にも。

「では……いきます」

本当なら声を掛けなくてもいい。シグフェルズの姿は向こう側から見えているし、何か異変があればすぐに分かる。
それでも律儀に返事をしてしまうのは、シグフェルズという少年の性格故にだろう。

ゆっくりと息を吐き、光をイメージする。とは言っても必ずしも光のイメージは必要ない。力を使うために必要なことは個人によって違うのだ。
シグフェルズが声を発してからどれくらい経っただろう。長い静寂の後、何の前触れも無くそれは表れた。

シグフェルズの背から広がった翼。女神の御使いが持つとされる羽毛の翼ではなく、どちらかというと妖精の羽根に似た翼。
黄金の光を帯びた琥珀の翼は光の加減によって美しい色合いを醸し出す。時には黄金、時には七色にも。
この翼こそ、悪魔に対して絶対的な力を有するとされる聖人の証。人でありながら悪魔を退け、圧倒する力を持つ者たち。



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あきゅろす。
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