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約の翼
視線の主
 二人が足を向けたのは中央区、教戒の近くでもある。ノルンとシグフェルズは一通りの買い物と昼食を終え、大通りを歩いていた。
 シグフェルズの用事は彼が持つ紙袋の中、包帯や痛み止めなどの薬品類である。見習いの悪魔祓いには必要な殆どの物品が支給されるが、それにも限りがあるし、薬品類は手に入らない。

 だが傷を極力人に知られたくない彼は教戒で事情を話して貰うより、街に出たほうが気が楽なのだ。痛み止め程度ならば医師の処方も必要ない。
 勿論、シグフェルズの傷は魔術では治せないし、薬品も同様だ。どうにもならない痛みばかりは痛み止めを飲んで我慢するしかない。

 行きかう人々に目を向けながら、ノルンは小さくため息をついた。ずっとじろじろ見られている。
 自分もシグフェルズも。

「……見られてる」

「僕は慣れてるし、ノルンは綺麗だからね」

 不機嫌そうに呟けばシグフェルズがくすりと笑う。何が可笑しいのかと睨み付ければまたにっこりと笑われた。
 シグフェルズの口から発せられた言葉にノルンは穴が空くのではないのかと言うくらい、少年を凝視していた。綺麗、という単語が出るとは思わなかったからだ。

「そう……初めて言われたわ」

 シグフェルズが見られる理由は分かる。ノルンなどよりずっと“綺麗”だから。
 自分を嫌い、世界を嫌うノルンなんかより。向けられる視線は憧れに羨望と言ったところか。
 複数の視線に混じる微かな殺気。それに気づかないノルンではない。一応これでも悪魔祓い見習いなのだ。

「シグ……」

「分かってる」

 小声で隣を歩くシグフェルズに声を掛ければ、彼は前を見据えたまま頷いた。さりげなく歩く速さを上げて角を曲がった。まだ視線は感じる。気のせいではない。狙いは完全に自分たちということか。
 二人は大通りを抜けて人の疎らな路地へと入った。だが角を曲がった先に、先程まで一緒に居たはずのノルンの姿はない。シグフェルズただ一人だ。

 少年は何事もなく、しかし神経は研ぎ澄ませて歩き続ける。人通りが全く見られなくなったところで胸元の十字架に触れると、銀色の杖――バクルスに変化させる。そして背後にいるであろう人物にバクルスを突き付けた。

「僕に何か用かな? いや、正確には僕たちに、かな?」



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あきゅろす。
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