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約の翼
残された命
「シグ……?」

「兄さん!!」

シグフェルズが思わずアルドに駆け寄ろうとするが、それは寸でのところで止まる。いくら兄が正気に戻ったとは言え、長い間ベリアルをおさえることなど、ただの人間に出来るはずがない。
そして案の定、アルドの顔が苦痛に歪んだ。胸を掻きむしり、苦悶の表情を浮かべる。

「う、あ……。小癪な! この程度で私を退けたつもりか!! シグ……早く、早く!!」

ころしてくれ、その言葉は後に続かなかった。アルドとベリアルの意識が体の中でせめぎあっているのだろう。彼の瞳が赤紫、榛と明滅を繰り返していた。
ベリアルは自らをいましめる鎖を引きちぎらんと魔力を込める。シグフェルズのためにも、まだ彼の命を絶つ訳にはいかない。
唇を噛み締め、ノルンが隣のハロルドを見た。

「ハロルド!」

「ほい来た、ノルンちゃん」

ノルンもハロルドもこの時を待っていた。それは眠っていたアルドの力がなければ、二人の力を持ってしてもなしえないこと。
ノルンの瑠璃色をした翼と瞳が、ハロルドの金緑の翼と片方の瞳が眩い光を放つ。そして二人は精霊の詩ともまた違う、力ある言葉を紡いだ。

『汝に宿る邪なる力、退け』

溢れる光。ノルンたちが使ったのは、浄化の奇跡と呼ばれる聖人の力。その奇跡は悪魔でさえ浄化する。二人から溢れ出す膨大な聖気。
瑠璃と金緑の光が混じりあい、極光のような輝きを見せた。それは見入らずにはいられないほど美しい光景だった。

「今回はお前達の蛮勇に免じて大人しく消えてやる。だが覚えておくぞ、忌々しい聖人たちよ」

ベリアルが艶やかな笑みを浮かべた刹那、二人の背にあった光の翼が消失する。だがそれと同時にアルドからベリアルの気配が完全に消えた。
浄化した訳ではないが、彼の体から追い出すことには成功したらしい。

ただ浄化の奇跡を使っただけではベリアルをアルドの体から追い出すことは出来ない。アルドが意識を取り戻さなければ成功しなかっただろう。
彼がアルドであることを確認したハロルドとルーファスが魔術を解く。

「兄さん!!」

今度こそシグフェルズが崩れ落ちるアルドに駆け寄った。鉛のように重い体を引きずり、ノルンもハロルドと彼らに歩み寄る。強大なベリアルの力を操った反動だろう。今のアルドは息も絶え絶えと言った様子だった。見るまでもない。彼の命は尽きかけていた。



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あきゅろす。
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