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約の翼
お手並み拝見
ラケシスとは違う。そこはやはり異端審問官だということか。ルーファスは笑みを浮かべてベリアルを拘束していた。
徐々にベリアルはノルンとハロルドの力に押され始める。だが、

「私はそう簡単に負けてはやらんぞ」

ベリアルを拘束していた鎖がぎちぎちと奇怪な音を立てる。次の瞬間、光の鎖は闇の炎に焼かれ、跡形もなく消滅した。闇色の炎は『炎の王』と呼ばれる彼の魔力の具現。
同じように彼の背にある二枚の翼にも炎が宿った。

「『炎の王』の力か……。人間ごときに力使いすぎだって」

「ハロルド……!」

苦しげな笑みを浮かべるハロルドに、ノルンも顔を歪めて彼を見る。ベリアルの力が徐々に強まっているのだ。このままでは二人がかりでも押しきられてしまうだろう。

「忌々しい光の天使の面影を宿す人間など消えればいい」

「ノルン、ハロルドさん!」

ベリアルの言葉は果たして誰に向けられたものなのか。
シグフェルズは居てもたってもいられなくなり、床を蹴ろうとする。

「待て」

「マクレイン司教! 離してください!」

シグフェルズが二人の元へ行くことはかなわなかった。ルーファスに止められたからだ。
シグフェルズには何故、彼が冷静でいられるのか分からない。異端審問官だから? それともハロルドを信じているから?

「君が行ったところでどうにもならないさ。聖人でもない君が」

柔和な顔立ちの、美貌の神父は正論を口にした。言われずとも分かっている。だが、このまま黙って見ていろというのだろうか。

「来ないで、シグ! シグなら分かるでしょ?」

背中から瑠璃色の羽を広げたノルンが優しく笑う。ベリアルはやはりどこかで人間を見下している。聖人以外の人など虫けら以下と思っているのだ。
だからこそ、そこに付け入る隙がある。

ノルンとハロルドは言わば囮だ。必ず隙が出来る。その隙を突くのは聖人ではないシグフェルズとルーファスの役目。兄を助けたいなら、冷静になって。そんな思いを込めてノルンは言葉を紡いだ。

「ノルン……」

「それまではハロルドと彼女のお手並み拝見といこう。あれも中々の演技派さ」

ルーファスが不敵な笑みを湛え、シグフェルズの耳元で囁いた。勿論、彼ははじめから全て分かっていて、わざと冷たい態度を取っていたのだ。



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あきゅろす。
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