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約の翼
悪魔VS聖人
「小賢しい!」

ベリアルが広げた血のように禍々しい翼から迸る魔力。聖なる気配が一瞬で霧散する。ぶつかり合う力と力。
聖人ではないシグフェルズやルーファスはハロルドに加勢することは出来ない。下手に割って入れば均衡を崩すことになるし、こちらが危険だ。

だがノルンは違う。この力ではほんの僅かしかハロルドの助けにならないかもしれない。
それでもノルンには力がある。決して心より望んだ力ではないけれど、シグフェルズとアルドのために使おう。

「小賢しいかどうか、試してみるといいわ」

光が弾けた。ノルンの背から二対の光の翼が生まれる。ハロルドのものとは違い、瑠璃色をしたそれは全ての『青』を凝縮したように美しく神々しい。
聖人の証である光の羽は練り上げられた膨大な聖気そのもの。

普通の悪魔ならハロルドとノルンの力を受けた時点で消滅しているだろう。それなのに、ベリアルは顔色一つ変えない。
むしろ、楽しげに笑っているだけだ。
ベリアル本来の体ではなく、戦闘訓練すら受けていない人の体で。

「この程度か、人の子よ。四人全員で掛かって来ても私は一向に構わんが?」

くすくすと笑みを漏らすベリアルは余裕そのものだ。余程、自らの力に自信があるのだろう。
しかしそれも当然だ。高位に属する悪魔であっても恐らくは、正面きってベリアルの力を超えるものはいない。

「遊んでるほど、異端審問官は暇じゃないさ。……白き翼の眷属よ、我が声に応えよ。其は遥か悠久の時に潰えし意志にして遺志。我が導きにて揺らめく魂を光鎖へと変え、悪き者を縛めよ。レージング・レイ」

朗々とルーファスの精霊の詩が響く。眼前に現れた複雑にして優美な金色の魔法陣。光の鎖がベリアルを縛めんと虚空を奔る。
光属性中級魔術、レージング・レイ。それはいつかラケシスがベリアルに向けて唱えた魔術。
その時はベリアルに触れることなく四散した。だが、

「これは……」

ベリアルの表情が変わった。何故なら四肢に光鎖が巻きつき、彼を拘束していたからだ。ラケシスのように砕けることもなく、それは鎖の形を保っている。
悪魔であるベリアルの動きを制限することがどれほど難しいか。しかしルーファスは顔色一つ変えない。不敵な笑みを湛えたまま、手を掲げているだけだ。



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あきゅろす。
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