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約の翼
待ち構えていたもの
奥に進むにつれて、不快感が増して行く。それを何と表現していいものか。ノルンでさえ“こう”なのだから、シグフェルズはもっと辛いはずだ。

「ベリアルの力が強くなってる……二人とも、大丈夫?」

「俺たちがこの中でもぶっ倒れないのは、ミシェル様のお力だろうよ」

ノルンとシグフェルズを案じるようにハロルドが振り返る。先頭を歩くのはハロルドで、ノルンとシグフェルズが後に続き、ルーファスが殿をつとめていた。
何かあっても直ぐに対応出来るようにとの配慮だ。

ルーファスが言うように、不快感を感じながらもこうして動けるのはミシェルの加護があってこそ。

「大丈夫です。先に進みましょう」

シグフェルズも皆にこれ以上の心配を掛けないよう、気丈に振る舞う。
弱音など吐いていられない。兄が待っているのだ。

そんな彼をノルンが複雑な表情で見つめていた。しかし銀の十字架を握り締め、無言でシグフェルズの後を追う。

宮殿に足を踏み入れてからもう結構な時間が経っている。それなのに不気味なくらい静まり返っていた。
下級悪魔の姿もなく、罠が仕掛けられていることもない。

やがてノルンたちの目の前にあらわれたのは大きな扉だった。天井まで届かんかと思われる両開きの扉は、黄金や翡翠、紅玉、青玉できらびやかに飾りつけられている。

「ここに……」

「ああ、彼がいる」

シグフェルズの呟きにハロルドは扉を見上げた。間違いなく、アルドはこの先にいる。
四人が扉の前に立った直後、轟音を立てて重厚な扉が開かれた。

開かれた先、謁見の間のような広間が広がっている。
一段高くなった場所には象牙や様々な宝石で飾られた玉座が鎮座しており、一人の青年が腰かけていた。

年齢は二十歳前後か。服装は上下共に黒で、ブーツまでもが同じ黒。絹糸のようなあま色の髪と白い肌だけが浮いて見える。
どこか女性的で整った顔立ちは、シグフェルズと瓜二つ。彼がもう少し成長すればきっと、青年のようになるだろう。

「兄さん……!」

思わず駆け寄ろうとするシグフェルズをハロルドが止める。彼はアルドと少年を見て、無言で首を振った。

「ようこそ、我が宮殿へ」

声と共にアルドが妖しく微笑む。開かれた瞳は見慣れた榛色ではない。禍々しいほどに煌めく赤紫だった。



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あきゅろす。
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